国務省出版物
選挙運動 ― 早わかり「米国の選挙」
Q: 大統領候補は選挙資金をどのように調達しているのか?
A: 1976年以来、大統領選の候補者は、選挙資金を賄う公的補助制度を利用できるようになった。
2000年の選挙までは、大統領候補に指名された候補者は全員この制度に参加し、規定の金額以上は使わないという誓約と引き換えに、公的資金を受け取った。
しかし、この制度は候補者にとって次第に魅力に欠けるものとなってきた。支出限度額があまりにも低く、主要な候補者が民間から調達できる金額より少ないことが多いからである。その結果、最近では、公的補助制度に参加せず、代わりに自分で選挙資金を集める大統領候補もいる。
大統領、上院または下院議員に立候補する者が自分で選挙資金を集める場合、その方法と調達先は連邦法により規制される。また連邦法では、献金者一人当たりの限度額も規定されている。連邦法は、誰が特定の候補者に献金しているかを報道機関と市民が確実に把握できるようにしている。
大統領候補者は政治委員会と呼ばれる運動組織を設立し、その組織を連邦選挙委員会に届け出なければならない。登録がすめば政治委員会は献金の募集を開始できるが、調達した全資金について連邦選挙委員会に報告しなければならず、同委員会はこの情報を一般に公開する。近年の主要政党の大統領候補は、何億ドルもの資金を選挙運動に使っている。自分で資金調達する候補者は、何千人もの献金者を見つける必要がある。
- 党の指名候補は大統領選のために公的資金を使えるが、指名獲得に向けての予備選挙や党員集会に公的資金を使うことはできない。
Q: 米国の大統領選挙はなぜこれほど多額の費用がかかるのか?
A: ごく簡単に言えば、大統領選挙の期間は12カ月以上にも及び、この間に全米の有権者1億人とコミュニケーションをとるには費用がかかるのである。
大統領候補は全米レベルだけでなく、50州各州でも運動を展開しなければならない。つまり、全米と州の両方のレベルでスタッフを雇い、有権者に直接会ったり、全国ネットと地方局のテレビ、ラジオ、ソーシャルメディアを通じて訴えたりしなければならない。予備選挙と党員集会の拡大により運動が長期化したため、以前よりも移動の距離と広告料が増えている。
候補者は選挙運動のためにスタッフを雇い、事務所を構え、遊説の手配をしなければならない。また調査を行い、政策方針書を発行し、ラジオ・テレビ、出版物、インターネットに広告を掲載し、おびただしい数の公式行事や資金集めのイベントに出席しなければならない。
大統領候補には、各州で実施される予備選挙に向けて運動を組織するという大変な仕事があり、もし指名されれば、今度は全米各地をまわって本選挙に備えなければならない。
下院議員の候補者は特定の下院選挙区で選挙運動を行うが、上院議員の候補者は州全体を回らなければならない。
- 候補者は、有権者が居住する場所まで移動するために資金を集めなければならない。
Q: 候補者は他の資金源を利用できるのか?
A: 最高裁判所は2010年、政治支出は言論の一形態であり、米国憲法修正第1条によって保護されるという判決を出した。
その結果、2010年以来、候補者は選挙運動に自分の資金を無制限に使うことが可能になっている。
またこの判決により、個人、企業、利益団体が資金を集め、それを特定の考え、候補者、住民投票、法令を支援するために寄付する際に組織される「政治活動委員会」(PAC)に、より大きな自由裁量が与えられた。連邦法によると、連邦選挙に影響を及ぼすことを目的に2600ドルを超える金額を受領または使用したとき、その組織はPACとなる。各州には、PACに相当する組織を規定する法律がある。
PACは候補者の運動資金の調達を行う公式の政治委員会から独立しているため、連邦選挙委員会への登録は必要だが、同じ規制を課せられない。しかし、PACが候補者とどの程度緊密に連携できるかについては制限がある。例えば、PACは候補者の政治委員会に直接5000ドルを超える寄付はできないが、特定の候補者の意見に賛同または反対する広告を出すための費用は無制限に使うことができる。