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気候変動解決へのパートナーシップ - 企業の環境問題意識の向上を図る「セリーズ」:ミンディ・ラバー会長とのインタビュー

リンジー・マデイラ

社会起業家で、セリーズ会長のミンディ・ラバー (Courtesy of Ceres)

社会起業家で、セリーズ会長のミンディ・ラバー (Courtesy of Ceres)

ミンディ・S・ラバーは、投資家や環境保護団体および公益活動団体の連合である「セリーズ」(Ceres:環境に責任を持つ経済のための連合)の会長。セリーズは、持続可能性を資本市場に組み込むことによって、地球規模の気候変動に取り組むための企業パートナーシップを開発した。ラバーは「気候リスクに関する投資家ネットワーク」(INCR)の運営責任者を務めており、スコール財団社会起業家賞を受賞している。またセリーズは、グローバル・グリーンUSAの2009年組織デザイン賞を、また2007年と2008年にはファスト・カンパニー誌の社会起業家賞を受賞している。セリーズに加わる前、ラバーは米国環境保護庁で地域アドミニストレーターとして勤務したほか、環境保護の視点を取り入れた投資信託を運営する投資会社を創設し、その最高経営責任者(CEO)を務めた。

セリーズは1990年、ラバーの言葉を借りれば、「環境の持続可能性にかかわる問題の影響を、大企業が自分のしていること、およびそのやり方に織り込むようにすることを共同の使命」と考える環境活動家と投資家のグループによって創設された。

問:セリーズはどのようにして発足したのですか。

ミンディ・S・ラバー:投資家は当時、環境問題を無視する企業には財務面の危険が及ぶ可能性があるということを懸念し、環境への影響を心配していました。企業は有毒物資の流出、気候変動への対応の不備、水不足といったリスクを十分には組み込んでいませんでした。そこで、エクソン・バルデス号の原油流出事故[1989年]の直後に、私たちは一緒に活動を始めました。目的は企業と対決することではなく、企業のビジネス慣行が私たちの環境と経済に与える影響は重大であり、資本市場内の持続可能性基準を引き上げる必要がある、と声を上げることでした。

問:企業側の注意を引くまでにどれくらい時間がかかりましたか。

ラバー:持続可能性や気候、その他の環境問題に取り組むことは、実際には会社の利益になるのだということを論証するのに2~3年かかりました。1990年代初頭では、まだ新しい考え方でしたから。私たちは企業に対し、環境の持続可能性に関する原則を重んじる倫理的価値観を支持するよう求めました。企業の支持を取り付けるのは時間がかかります。企業としては、当然のことですが、何かを簡単に支持するわけにはいかないのです。内容を顧問弁護士が読み、役員会が読み、CEOが読みます。そんなことが実現するはずはない、企業が重大な意味を持つ一組の原則を支持することはない、と人々は言いました。けれども、実際には支持してくれました。それから、数多くの長期にわたる、有意義な関係が始まったのです。

 私たちは、こう言ったんです。企業にはしなければならいことがもっとある、と。まずしなければならないのは、持続可能性の足跡の公開です。私たちは「グローバル・レポーティング・イニシアチブ」と呼ばれるものを考案し、それが持続可能性に関する企業報告の代表的な国際基準になりました。また、そんなことをする者はいないだろうと言われましたが、今では1,695社もの多国籍企業がこの「グローバル・レポーティング・イニシアチブ」に基づいて持続可能性報告書を作成しています。私たちは企業に当然のこととして財務報告書の作成を期待しますが、それとちょうど同じように、持続可能性報告書の作成を求めています。その企業の炭素排出量はどうか。企業はそれにどのように対処しているか。有害廃棄物の処分はどうしているか。私たちが設計する報告システムは、一般市民、企業の近くに住む人びと、投資家――会社を所有している人々――に情報を提供するだけではありません。持続可能性の問題がもたらす潜在的なリスクと法的責任を理解してもらいたいのです。それは影響、結果、関与、そして会議の招集、と進んで行きましたが、時間がかかりました。

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(Courtesy of Ceres)

問:持続可能性に関するベストプラクティスへの関心は高まりましたか。

ラバー:15年前、私たちが人権から環境に至るまでの持続可能性の足跡を、企業が全面的に報告するためのベストプラクティスについて話し合ったとき、結局それは情報公開だけではなく、企業が自らの影響を点検する方法を学習することだということが分かりました。実際、測ることができる物は管理できるということを知りました。企業は、水不足から有害物質の流出まで、自ら抱えるリスクを測定すれば、そのリスクをより適切に管理するようになります。1990年代半ばから2000年にかけて、企業は自社にかかわる持続可能性については、それをどう測定し管理したらよいかを把握するようになりました。次の5年間、私たちは具体的な取り組みについて企業と協力しました。どうしたら企業はより良い施設を建築できるか、あるいは持続可能性を製品に組み込むことができるかといったことです。

私たちは今や、持続可能性や気候問題が資本市場にとって正当性のある問題であるかどうかなどということは議論していません。セリーズの投資家としての側面[気候変動リスクに関する投資家ネットワーク]を見ると、8兆ドルの価値に相当する会員がいます。つまり、持続可能性や気候問題は現実の投資リスクであり、かつ投資機会であるということです。役員室からコピー室に至るまで持続可能性という考え方を組み込む上で、私たちのパートナーとなっている企業は82社あります。米国証券取引委員会(SEC)は企業に対し、気候変動による重大なリスクを同委員会への報告書の中で明らかにするよう義務付けています。

セリーズは最近、21世紀の企業に関する研究を発表しました。それは原則や情報開示、あるいは1回限りの取り決めを超えるものです。今や利害関係者、消費者、近隣の住人、労働者、投資家が期待しているのは、企業が食物連鎖の至る所に持続可能性を組み込むことです。

それで、期待が高まっているわけです。「わが社は大きなリサイクルプロジェクトを実施しています。環境保護に配慮するいい会社でしょ?」などといった1回限りのことではもはや済まないのです。私たちは合議による平等なパートナーシップというやり方で、現在期待されていることを推進し、緊密に協力し、粘り強い取り組みを続けます。私たちはこうした期待については大いにこだわりがありますので、書き留めます。私たちの立場は、それぞれの企業が持続可能性について考える委員会を役員会の中に設ける必要があり、管理職の報酬は、多くの場合、他に100もある評価基準と同様に、持続可能性に関連する評価基準と連動させるべきである、ということです。持続可能性担当の幹部社員を重役室に引き上げ、実際に企業全体を管理している責任者の直属とすべきです。

世界は徐々に変わってきました。私たちは持続可能性について口で言う段階から行動で示す段階に移っているのです。

セリーズのパートナーであるアメリカン・エレクトリック・パワー(AEP)社はテキサス州西部に「デザートスカイ」風力発電基地を所有している。定格1.5メガワットの風力タービン107基が約38.4km2の面積に点在する。セリーズ会長のミンディ・ラバーによれば、AEPは「石炭や石炭から得られる電力を売る以上に、エネルギー効率を売り始めている」という (Wikipedia Commons)

セリーズのパートナーであるアメリカン・エレクトリック・パワー(AEP)社はテキサス州西部に「デザートスカイ」風力発電基地を所有している。定格1.5メガワットの風力タービン107基が約38.4km2の面積に点在する。セリーズ会長のミンディ・ラバーによれば、AEPは「石炭や石炭から得られる電力を売る以上に、エネルギー効率を売り始めている」という (Wikipedia Commons)

問:セリーズや同様の団体とつながりを持つことは、企業イメージを高めますか。

ラバー:セリーズなどの組織と提携することは、従業員に対して非常にはっきりとしたメッセージを発信することになります。会社は指導的立場になりたいと思っている。正しいことをしたいと思っている。透明性の向上に前向きであり、それは良いことです。世間から信頼される企業であること――これは私たちと協力しようとする企業に必要とされることですが――は、今や企業が持続可能性の問題にどう取り組んでいるかを問いかけている投資家にとって大事なことです。消費者にとっても大事なことなのです。

問:企業による気候変動解決へのパートナーシップで最も効果的な要素はなんですか。

ラバー:成功という意味では、最も有効な要素は企業がその慣行ややり方を変えることです。議論するのではなく、変えることです。変化は起こりつつありますが、まだ部分的です。でも、変化は始まっています。さらに変化が見られれば、企業がさらに変わるのを手助けすることができれば、それだけ状況は良くなるのです。

問:セリーズとのパートナーシップで成功した例を挙げていただけますか。

ラバー:私たちのパートナー企業はすべてが徹底的な持続可能性報告を実施しています。この事実が大きな成功の一例です。SECに対して持続可能性報告のより完全な開示を義務付けるよう法的な申し立てを行っていることも同様です。

しかし、もっと具体的に言いますと、炭素を大量に排出する企業の1つであるアメリカン・エレクトリック・パワーは皆さんが言う伝統的な「グリーン」企業ではありません。私たちは4年前に同社と協力を開始し、まず、炭素を排出する公益事業であることの経済学に関する広範囲にわたる持続可能性報告書の作成に取り組みました。私たちは役員会のメンバーと直接会って、主として石炭を燃料に使う公益事業から徐々に撤退する必要がいかにあるかについて詳細な検討を行いました。それから、会社の各部門において大筋で持続可能性を取り入れることで協力し、同社はなかなか良い持続可能性報告書を作りました。同社は、石炭や石炭から得られる電力を売る以上に、エネルギー効率を売り始めています。持続可能性を事業の品質証明にしたのです。

私たちはデル社の環境プログラム全体の見直しについて、同社と協力したばかりです。デル社の優先事項は何であるべきか、どのような変革をすべきか、どのように物事を進めるべきかといった問題で同社を後押しするため、世界各地から15人の利害関係者を集めて会議を主催しました。

ナショナルグリッド社とも協力しました。同社の最高経営責任者の報酬は今や、炭素排出量削減の業績を評価基準として決められています。同社は持続可能性を給与決定の要素として組み込みつつありますが、それは私たちが各企業に求めていることなのです。

問:持続可能性を組み込むことは利益に寄与しますか。

ラバー:ほとんどの場合、寄与します。持続可能性で扱いにくいところは、企業というのはどれくらいお金を使ってどれくらい稼いだかを大変短い期間で評価されるということです。持続可能性に関する取り組みの結果は3カ月とか6カ月とかの短期間では現れないことが多いのです。

けれども、ウォルマート社が最近、持続可能性をその品質証明にしている理由が1つあります。同社は膨大な額のお金を節約しました。従業員の熱意は大いに高まりました。持続可能性の面でのリーダーと見られているおかげで、一流ビジネススクールから飛びぬけて優秀な人材を採用することも以前よりうまくいっています。ですから、ウォルマートの場合、お金を節約し、お金をもうけている、ということで、ビジネスに役立っているのです。

場合によっては、もう少し時間がかかります。結果がすぐには分からないからです。気候変動問題に取り組んでいる保険会社は、ハリケーン・カトリーナのような大災害がもう起きないことを望んでいます。なにしろ、400億ドルもの保険金を支払中ですから。保険会社は気候変動が緩和されることを望んでいますが、時間をかけないと結果が見られません。

デル社は有毒廃棄物を減らすために自社のコンピューターを設計し直し、しかも――有害物質が私たちの水道に入りこむ可能性のある埋め立て地にコンピューターを捨てるのではなく――強力な「引き取り」政策を取り入れるために業務の見直しを行いました。その際、当初は、お金がたくさんかかりました。しかし、長期的にみれば、それによってデル社の市場は大いに拡大するだろう、とデル社も私たちも信じています。

問:企業が自らを環境に配慮しているように見せかける、いわゆる「グリーンウォッシング」は、問題ではありませんか。

ラバー:グリーンウォッシングについては、いつも深刻な懸念を抱いています。ですから、セリーズは連携して活動する企業に、「グリーンスター」とか「グリーンプラス」といったものは与えていません。どんな企業でも、たとえ前向きに進んでいる企業でも、非常に大きな問題が出てきます。ですから、私たちは企業に透明性を保ち、細部に気を配るよう促しています。もし企業が何か良いことをしたら、その企業には、結果がどうなったかを話す義務があります。

問:企業による環境パートナーシップの方向性については楽観的ですか。

ラバー: 非常に大きな変化がやってきましたが、まだ先は長いと私は思います。非常に重要なことは、持続可能性がビジネスの上での課題かどうかなどということは、もはや議論の対象ではないということです。ウォール街の会社は、持続可能性と気候変動に関する分析を毎日発表しています。ブルームバーグ社は、企業分析用の環境持続可能性プラットフォームを持っています。SECがそれを義務付け、企業はそれを実施しています。今や、企業にさらに包括的なやり方で行動を起こさせることが目標です。良い点は、企業が隠し立てをせず、耳を傾け、ビジネス上の提案があることを理解していることで、私たちは彼らをできるだけ速く前進させようとしているところです。

 

※本稿に示された意見は、必ずしも米国政府の見解あるいは政策を反映するものではない。


出典:eJournal “Climate Change Partnerships”
*上記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

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