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気候変動解決へのパートナーシップ - 海からエネルギーを取り出す:分散した知識の活用

ジェシカ・モーリー

海洋エネルギー産業は、いくつかの困難な課題に直面しているが、それらの課題は、解決策を全世界的に活用することによって市場を加速させる分散型イノベーション――連携された国際協調的な取り組みの1つ――を利用することで克服できるであろう。

ハワイの沖合約1.6kmの海上に係留されたオーシャンパワー・テクノロジー社のパワーブイ。従来のブイと変わらないように見えるが、高さ約0.9~6.7mの波に浮き沈みしながら、水圧ポンプを作動させることによって、搭載している発電機を通じて波の動きを電力に変換する。電力は海底ケーブルを通って陸地に送られる (Courtesy Ocean Power Technologies Inc.)

ハワイの沖合約1.6kmの海上に係留されたオーシャンパワー・テクノロジー社のパワーブイ。従来のブイと変わらないように見えるが、高さ約0.9~6.7mの波に浮き沈みしながら、水圧ポンプを作動させることによって、搭載している発電機を通じて波の動きを電力に変換する。電力は海底ケーブルを通って陸地に送られる (Courtesy Ocean Power Technologies Inc.)

潮汐波や潮流によって作られる電力は、世界の低炭素エネルギー需要の15~20%以上を満たすことができると推定されている。流体動力(波力、潮力および海流)を利用した発電技術は、先進国でも途上国でも、広範囲で入手可能なこうした主要なエネルギー源を活用することができ、ひいては気候変動を緩和できる可能性がある。

このように大きな商業的チャンスがあるにもかかわらず、海洋エネルギーは大きな難題に直面している。コストが、従来型の電力源だけでなく、一部の再生可能な電力源と比べてもはるかに高い。さらに、業界をリードする技術が今なお1つも出現しておらず、75社を超える開発企業が限られた公共投資、民間投資をめぐり世界で競争している。

 それ以外にも次のような大きな課題があるため、海洋エネルギーの開発は遅れており、コストは依然として高い。

  • 高費用、高リスクを伴う厳しい海洋環境の中でのテストが必要なこと。
  • 遠く離れた場所から送配電網へのアクセスが必要なこと。
  • 環境への未知の影響を管理しなければならないこと。
  • 多くの連邦・地方政府機関による規制のやぶを切り開かなければならないこと。

さらに、この業界は多数の小規模の新興企業で占められているため、情報が共有されず、「既にあるものをまた作ってしまう」ケースがある程度発生する。また、こうした小規模の会社には、自分たちの海洋技術装置を市場に送り出すための十分な資金がない場合が多い。

分散型イノベーションの応用

政策立案者にとっての問題は、こうした障害を乗り越えるために、どのようにしてコストの急速な削減をもたらし、市場を加速させるかということである。その答えは、本号掲載の記事「グローバルな専門知識の活用」で概説した分散型イノベーション(DI)に基づくアプローチのような、分散した知識と経験を活用する国際的に連携のとれた協調的市場加速アプローチにある。こうしたアプローチは、迅速な学習を後押しし、劇的なコスト削減をもたらす可能性もある。

「皆が協力して取り組むことが急務となっている」― 2010年英国海洋行動計画
英国の再生可能エネルギー諮問委員会が発表した報告書は、次のように提言している。「[研究・開発]プロジェクトに対し、産学官一体となって、より協力的に取り組み、[これらの]プロジェクトを積極的、かつ、より密接に管理・運営する。これによって、確実にプロジェクトは真の問題に取り組むことに集中でき、情報交換の機会が生かされ、プロジェクトが適切な研究情報を生み出し、出来るだけ多くの成果が発表されるようになる」
海洋エネルギー市場を加速させるための国際的な分散型イノベーション・アプローチを奨励すべき理由はいくつかある。

  • 装置の失敗が業界全体に悪影響を与える。業界の規模が非常に小さいため、失敗が技術的課題に比べて不相応なまでに目立つ傾向がある。ある装置開発会社は、「失敗が起こるたびに、業界全体が数カ月を棒に振ってしまう」と述べている。
  • この業界を前進させるためには巨額の資本が必要である。その額は2020年までに約7,500億ドルと推定されているが、これまでの経験では、コストは予想以上に高くなることが判明している。
  • すべてのクリーンエネルギー技術と同様、海洋エネルギー市場はグローバルである。開発企業は、自国の外で活動しており、その状況は今後も変わらないであろう。
  • 気候変動解決へのパートナーシップ
海洋エネルギー業界は多数の小さな新興企業で占められている。そのため、情報が共有されず、「既にあるものを作ってしまう」。小規模企業には、自らの海洋技術装置を市場に送り出す十分な資金がないことが多い (©AP Images)

海洋エネルギー業界は多数の小さな新興企業で占められている。そのため、情報が共有されず、「既にあるものを作ってしまう」。小規模企業には、自らの海洋技術装置を市場に送り出す十分な資金がないことが多い (©AP Images)

協調的アプローチは、次のような分野において市場障壁を取り除き、海洋エネルギー産業を加速させることができる。

  • モデルの構築 ─ 装置の性能とコストを評価する改良されたコンピューターモデルによって、開発コストを大幅に削減し、その情報を試験施設と大学の研究所の間で国際的に共有することが可能になる。
  • 試験施設 ─ 現在、米国には洋上試験施設は1つも存在せず、英国とアイルランドのわずか数カ所で開発が進められているにすぎない。国境を越えて、経験とスキルを共有すれば、試験施設の急速な性能向上とコスト削減が可能になる。
  • 装置性能とコストのデータ ─ 業界、投資家および公共部門は、民間企業が健全な経営上の意思決定を下せるように、また公共部門が自信を持って投資を行えるように、コストと性能に関するより多くのデータを必要としている。
  • 「システム周辺機器」に関する技術 ─ コストの削減は、設置される海洋エネルギーシステムのコストの20%を占めるにすぎない設計の改善だけでなく、システム周辺機器(BOS)の分野でも、係留方法の改良、電力インフラの整備、機器の設置・稼動・保守のための革新的な方法の採用によって達成できる。
  • 連携 ─ 業界全体の連携、特に小規模開発企業と、資金力とプロジェクト開発の経験を持つ大手エンジニアリング会社や公益企業との連携を奨励することによって、技術開発を大幅に加速することが可能になる。
  • 環境リスクと規制リスクの管理 ─ 協調と協力によって、環境アセスメントその他の規制プロセスに要する労力が減る。米国で行われたある調査は、業界関係者の多くが「知識不足や[既存の環境および規制に関する]情報へのアクセスの欠如が、[新しい]研究に対する資金不足と同じくらい制約要因となっていると感じた」と結論づけている。
  • 気候変動解決へのパートナーシップ

海洋エネルギー産業は、いくつかの困難な課題に直面しているが、それらの課題は、解決策を地球規模で活用することで市場を加速させる、連携された国際的な分散型イノベーションによる取り組みによって克服できる。このアプローチは、他のテクノロジー分野では有望な結果を出しているものの、開かれた革新を通じて海洋エネルギー市場を世界的に加速させるプロジェクトは、まだ1つも実施されていない。しかし、米国エネルギー省は、海洋分野における国際共同事業に着手することに関心を示している。

 

国際協調:海洋エネルギー

  • 高度科学技術の開発について、国際的な分散型イノベーションによる取り組みを提案する
  • 革新的な製品の開発を阻む主な障害を特定する
  • 業界で起きている活動に関する認識を深める
  • 国際協調により促進されると考えられる具体的な分野の概要を説明する
  • 波力、潮汐力および海流エネルギーを活用する重要な機会を提供する

 

※本稿に示された意見は、必ずしも米国政府の見解あるいは政策を反映するものではない。


出典:eJournal “Climate Change Partnerships”

*上記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

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