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21世紀の農業 – 農作物が21世紀のエネルギーを供給する

農作物が21世紀のエネルギーを供給する

イライザ・ウッド

各国が国民の将来の食糧ニーズを満たす方法を模索している一方で、よりクリーンなエネルギー源を見つけ出すことも急務である。将来、農業がエネルギー生産の一部を担う可能性は高く、さまざまな国が現在この可能性を追求している。

イライザ・ウッドはエネルギー問題の専門家。その著作はwww.RealEnergyWriters.comで読むことができる。

世界のエネルギー問題に対する解決策の1つは、油田ではなくトウモロコシ畑にある。このことは、必要な石油の一部を、植物から作る燃料であるバイオ エネルギーで賄う国が増えていることからも分かる。ブラジルではサトウキビ、米国ではトウモロコシと大豆、他の国ではその他のイネ科の植物や種子、樹木と いうように、「エネルギー農業」によって農作物に対する需要が増大し、農作物の巨大な新市場が開かれている。

米国における農作物由来燃料

多くの国がすでに乗用車やトラック用の燃料にバイオエネルギーを利用しており、その多くはガソリンやディーゼル油に混合して使われている。農作物を ベースにした燃料で、米国で使用されているものは主に2種類ある。トウモロコシから作るエタノールと、大豆から作るバイオディーゼル油である。

これらの燃料の市場は成長することが予測される。米国の液体燃料の需要は今後25年で拡大するが、その増加分の一部はバイオエネルギーによって賄われると米国エネルギー情報局は述べている。欧州、アジア、中南米でもバイオエネルギーに対する依存度は増加している。

バイオエネルギーには特別な魅力がある。農作物を育てるだけで得られるバイオエネルギーは、再生可能だからである。現在多くの交通機関で主な燃料源 として使われている石油は、使ってしまった分を補充することはできない。エコノミストたちは、石油は供給量が減少するにつれて価格の上昇が予想されると述 べ、専門家はバイオエネルギーが21世紀における解決策の1つになると予測している。

 「石油をベースとする燃料から脱却するうえで、バイオ燃料が果たす役割は非常に大きい」とLEGCコンサルティング社のバイオエネルギー専門家、 ジョン・アーバンチャックは言う。同社は世界中に事務所を持つ専門性の高いコンサルティング会社である。事実、アーバンチャックが顧問役を務める「全米バ イオディーゼル協会」によると、米国が現在使用しているディーゼル油の5%を再生可能燃料に置き換えれば、米国がディーゼル油生産用に現在イラクから輸入 しているのと同量の原油が不要になるという。

「他にもメリットはある」とアーバンチャックは付け加える。「バイオ燃料は市場取引に基づく収入を農家にもたらすが、これは非常に重要である。市場取引に基づく収入を農家に提供できれば、農業への政府補助金を減らすことができ、その分を他に使うことができるからだ」

 

wwwj-ejournals-agriculture9aブラジルではサトウキビのくずを利用して生産されたエタノールが、自動車燃料用に決められた割合でガソリンに混合される(© AP Images/Andre Penner)

特に、トウモロコシ農家はバイオエネルギー・ブームで利益を上げている。米国がガソリンへのエタノール混合率を上げる政策をとっているからである。 2008年に米国がガソリンに混合したエタノールは340億キロリットルを上回ったが、これには32億ブッシェルのトウモロコシが使用されている。連邦政 府は2022年までにエタノールの生産量を4倍にするよう定めている。製造業者の事業拡大に伴い、業者が必要とするトウモロコシの量は増加する。米国農務 省によると、米国におけるトウモロコシの使用量のうちエタノール生産に使用される割合は、2018年までに35%になる見込みである。

米国でトウモロコシがエネルギー作物になるのはもっともなことだ。なぜなら、「米国は何よりトウモロコシの栽培と加工に優れている」からだ、とアー バンチャックは言う。トウモロコシは米国で最も広く生産されている飼料用穀物であり、米国は常により効果的な栽培方法がないかと研究を続けている。昨年、 米国のトウモロコシ作付面積は前年より500万エーカー(202万ヘクタール)少なかったが、それで132億ブッシェルという記録的な生産量を上げてい る。

バイオディーゼル油の主要な原料作物である大豆も、米国では大量に栽培されている。米国は世界最大の大豆の生産国および輸出国であり、29州で40 万戸近い農家が大豆を栽培している。米国におけるバイオディーゼル燃料(混合またはは単体で使用)の販売量は、2009年には170万キロリットルにの ぼっている。大豆1ブッシェルからバイオディーゼル油1.4ガロン(5.3リットル)を生産できるので、農家は2009年だけでも3億2,800万ブッ シェル近くの大豆を再生可能なバイオディーゼル油の生産に供給した。

 

国際的なバイオエネルギー熱

バイオ燃料と風力は、経済協力開発機構(OECD)加盟の30カ国において、最も急速に成長する再生可能エネルギー資源だと考えられている。インド は今後20年間でバイオ燃料の使用量を推定15%、中国は10%拡大する見通しである。南米諸国でもバイオ燃料産業が成長しつつある。

しかし、先頭を走っているのは米国とブラジルであり、今後もその状態は続くと考えられる。この2国で世界のバイオエネルギーの70%を生産してい る。米国の方がエタノールの生産量は多いが、世界初のバイオ燃料国はブラジルだと言われることが多い。十分な政府投資を背景に、ブラジルはこの30年間、 サトウキビからエタノールを生産する工程を完成させてきた。もはやブラジルには、純粋にガソリンだけで走っている車はない。ブラジル政府は、すべての車両 燃料のエタノール混合率を約25%にするよう定めている。2008年におけるブラジルのエタノール生産量は約2万5,000キロリットルで、その約15% が輸出されている。他の国もブラジルの成功にならうことができるかどうかは、大きく議論が分かれるところである。ブラジルほどサトウキビ栽培に適した気候 と土地を持つ地域は、世界にほとんどないからである。開発途上国では既に、バイオ燃料が広く使われているが、それは家庭内の暖房や料理の熱源として使われ ているにすぎない。バイオ燃料用作物は、その市場がまだ形成されていないため、収入源にはなっていない。しかし、いくつかの開発途上国には、未開拓の膨大 なバイオエネルギー資源が眠っており、これを考えれば、状況が変わる可能性はある。これは、ハーバード大学ケネディ行政大学院科学・国際関係ベルファーセ ンターの調査報告書Certification Strategies, Industrial Development and a Global Market for Biofuelsが述べているところである。

バイオエネルギーは、貧しい農村地域に新しい農業を築くための基盤となり得る可能性があるが、その一方で、現実には、難しい問題が残っている。投資 家や資本を引き付けて必要なインフラを構築するためには安定した政府が必要である。また、バイオ燃料の生産には、バイオ燃料の精製所、バイオ燃料を使える 車、バイオ燃料を市場に運ぶ輸送施設が必要なのである。

さらに、エタノールは1バレル約60ドルとコスト競争力の高い燃料であるが、バイオ燃料の輸出市場は、ベルファーセンターの報告書によれば、政府が 策定する政策目標が「さまざまで、時には矛盾するため、現在無計画に形成されつつある」という。例えば、先進国が自国の農家の利益を保護しようと輸入を制 限すれば、その市場への新規参入は難しくなる。同報告書では、それでもスリナム、ガイアナ、ボリビア、パラグアイ、コンゴ民主共和国、カメルーンには、サ トウキビを原料とするエタノールを生産・輸出できる可能性があると見ている。

最も重要なのは、国家が農業資源をエネルギーに投入する前に、食糧安全保障を達成することである、と同報告書は述べている。実際、バイオ燃料が食糧 供給に影響を及ぼすのではないかとの懸念は、米国内にすらある。2007年から2008年にかけて食品価格が上昇したとき、アースポリシー研究所などは、 その主な原因はバイオ燃料にあると指摘した。燃料の生産にトウモロコシを使用することでトウモロコシの需要が増加し、食料用トウモロコシの価格を押し上げ た、と同研究所は断定した。しかし、のちに米国議会予算局は、トウモロコシをエタノール生産に使用したことが食品価格に及ぼした影響はわずかであり、食品 価格は5.1%上昇したが、そのうちバイオ燃料生産が原因による価格上昇は0.5〜0.8ポイントにすぎないとの結論を出した。エネルギーコストの高騰な ど他の要因の方が、食品価格の上昇に占める割合は大きかったと予算局は述べている。しかし重要なのは、バイオ燃料がとりもなおさず食品価格の上昇につなが るという不安を、バイオエネルギーを擁護する人々が払拭することである。イネ科の植物や豆類の全てが燃料生産に使われるわけではないと、多くの人が指摘し ている。家畜の飼料用、あるいは他の目的でも、穀物の粉や他の副産物が抽出されているのである。

 

wwwj-ejournals-agriculture9bネパールの地方市場。こうした地方レベルの市場を発展させることが、食糧へのアクセス改善と食糧安全保障の強化に向けての1歩であると専門家は指摘する。(© AP Images/Kiki Calvo)

次は何か

トウモロコシと大豆の需要は今後も堅調に続くと予測されるが、現在さまざまな開発段階にある他の農作物も、バイオ燃料の原料として競合することにな る。例えば、アイダホ大学農業・生命科学部の研究者は、カラシナの種子、セイヨウアブラナ、ナタネに大きな可能性があると考えている。カラシナの種子には 2つの用途があり、種子から採れる油はバイオディーゼル油になり、刺激性のある粗びき粉は殺虫剤として農地に散布できる、とアイダホ大学で品種改良・遺伝 子学の教授を務めるジャック・ブラウンは言う。

バイオ燃料が完全に石油にとって代わるとは考えられない。しかし、バイオ燃料によって減る石油の使用量がほんの少しであっても、バイオ燃料の存在が 石油価格を押し下げる圧力になるとアナリストたちは期待している。バイオディーゼル油に関しては、必要な石油燃料のすべてをバイオディーゼル油に換えるよ う、ブラウンは農業界に強く呼びかけている。農業を支援するだけでなく、石油が排出する汚染物質から農地を守るためにも、トラクターとトラックは農場で作 られた燃料で走らせるべきだと同教授は言う。これが石油の利用に与える影響は、重大だが小さなものでしかない。農業は米国の国民総生産の1%強を占めてい るにすぎないからだ。「バイオディーゼルが、私たちの望みどおりのものになったとしても、この国で必要な燃料のほんの一部しか生産できない。従って、マク ギンティ夫人が子どもを学校に送迎する車や、セレブなカリフォルニアのスターがバイオディーゼル油を使うべきではない。環境に敏感な地域で使うべきだ」と ブラウン教授は述べている。

もっと変わった原料からバイオ燃料を作る研究も行なわれている。すなわち、藻類、ヒマシ油、コーヒーの粉、微生物、羽毛粉、サケ油、タバコ、その他 の草類、種、樹木などである。ハリウッドのスターは、ファーストフード店が揚げ物に使った残り油から作るバイオ燃料を使っていると宣伝している。しかし、 揚げ物の残り油などは固まりやすいため制限があるうえ、利用できるのはわずかな量である。

その一方で、航空業界はバイオ燃料へと移行しつつある。ボーイング社、メキシコ通信運輸省傘下の空港・補助サービス庁、およびハネウェル社は共同 で、バイオ燃料の生産にメキシコ産の農作物を使用する方法を研究している。米国では貨物輸送会社フェデックスが、使用する燃料の3分の1を2030年まで にバイオ燃料にすると約束している。バイオエネルギーは、小規模発電所での使用が大半であるが、発電にも使用されている。有望な分野の1つは、バイオエネ ルギーと石炭の混焼である。こうした発電所では、一定時間だけ石炭を使用してコストを抑え、残りはバイオエネルギーを使用して環境にやさしい発電所にしよ うというのである。

バイオ燃料に対する世界の需要は、2030年まで年間8.6%の伸びが予測されている。この伸びが現実のものとなるかどうかは、政府の支援にかかっ ている。多くの再生可能エネルギーがそうであるように、バイオ燃料も依然として資金面での優遇措置に依存しているからである。例えば米国では、連邦政府が 設けた基準により、ガソリンに混入するバイオ燃料を2022年までに1億4,500万キロリットル近くまで増やすと定められている。さらに、オバマ政権 は、バイオ燃料の先端的研究に8,000万ドルを拠出すると約束している。

この種の支援と、石油代替物を求める動きを考え合わせると、バイオエネルギーは農業という非常に古いビジネスに新たな活力を吹き込み、農業が立ちゆ くすべを提供してくれる。農業はこれまで食料、衣料、住居用資材を生みだす製品づくりを担ってきたが、今では、もう1つの必需品、つまり、ものを動かすた めのエネルギーの供給も確実に農業の仕事になっている。


本稿で示された意見は、必ずしも米国政府の見解あるいは政策を反映するものではない。


出典:eJournal “21st-Century Agriculture”
*上記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

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Crops Will Provide 21st-Century Energy