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最良の燃料としてのエネルギー効率 – エネルギー効率化を通じて市民性を育む

エネルギー効率化を通じて市民性を育む

ファビオ・パルミジャーニ

先進世界においては、電力供給を行う事業体はエネルギーが浪費されていることについて利用者を教育し、エネルギー効率の改善を図る。発展途上世界では、こうした事業体は利用者に対し、電力を無料で手に入れることをやめて電気料金をきちんと支払う合法的な顧客になることが、なぜ利用者自身にとって最高の利益になるかについて教育する。

本稿の筆者のファビオ・パルミジャーニは、リオデジャネイロ在住のフリーライターで、ビジネスとエネルギー問題を専門としている。

地理的には世界第5位の大国であるブラジルは、南米の面積のほぼ半分を占める。人口は1億9100万人、世界の10経済大国のひとつであることを誇りにし、世界で最も有望な新興市場のひとつと考えられている。ブラジルの産業は、世界中に輸出する製品を大量に生産し、同国の電力消費量は高い水準にある。

経済成長がもたらした繁栄の中で、ブラジルでは、社会および階級間の不平等がまだたくさん残っている。同国のシンクタンクIPEAの報告書によると、世界の国々の90%がブラジルよりもバランスのとれた収入分布を示しており、ブラジルではその富の75%が人口のわずか10%に当たる人々の手にあるという。しかし、最も恵まれない階層の人々の1人当たりの所得は毎年7~8%の伸びを見せており、これまでにない高い伸び率になっている。とはいえ、連邦統計研究所であるブラジル地理統計院(IBGE)によれば、スラムに住む人々の数は2020年までに5500万人に達し、全人口の25%を占める見通しである。

ブラジルの低所得コミュニティでは、電力など基本サービスの提供が限られており、同国南東部および北東部のスラムの住民は、冷蔵や照明などの基本的なニーズを満たすため、器具を不法に電線につないで電力を得ることも多い。

政府の連邦エネルギー計画会社であるエネルギー研究公社(EPE)の推計によると、電力の「商業的損失」――送電線から電気を不法に抜き取ることを意味する公式の用語――は平均で5~6%になる。しかし、北東部の一部地域では、生産される全エネルギーの25%までもが盗電により消費されているという。

ブラジルの電力持ち株会社ネオエネルジアは、盗電と電力の違法利用により大きな被害を受けている地域で配電器を保有している。

wwwj-ejournal-energy9aサンパウロのパライゾポリスにあるファベーラ(貧民窟)の風景。太陽電池パネルにより、代替エネルギー源がこの人口過密地域に導入された。(CourtesyAESEletropaulo)

ネオエネルジア社の最高経営責任者であるマルセロ・マイア・デ・アゼベド・コレアはこう語る。「人々は盗電が犯罪であるとは考えていません。地元の自治体はわれわれを支持してくれてはいますが、この習慣を根絶する唯一の方法は、電力を盗むことが利口なことではないことに住民が気付くことが必要です」

盗電があまり利口なことではない理由のひとつに安全の問題がある。送電線への接続がでたらめだったり、装置が規格外だったりすると、ショートや火災の発生につながる。

「ショートが原因で火災が発生し、近所に住む人たちが全財産を失うという出来事が過去にも多数ありました」とサンパウロで2番目に大きいスラムであるパライゾポリスの住民協会の会長、ジルソン・ロドリゲスは言う。人口1800万のサンパウロ大都市圏にあるパライゾポリスは、地元ではファベーラ(貧民窟)と呼ばれ、約8万人が住んでいる。

 

消費者から顧客へ

盗電と安全に対する二重の懸念から、サンパウロ州の配電会社であるAESエレクトロパウロ社と国際銅協会(ICA)は、米国国際開発庁(USAID)の協力を得て、野心的なプロジェクトを立ち上げた。2005年、送電線への接続を合法化して盗電を減らすプログラムを開始したのである。このプログラムは、人々をエネルギー消費者から顧客に変え、社会的包摂の推進や良き市民としてその責任を果たす精神の育成という、より大きな社会的目標を合わせ持っていた。

パライゾポリス住民協会のロドリゲス会長はこう語る。「このプログラムは、パライゾポリスに住む私たちにとって重要な意味を持つものでした。というのも、私たちのコミュニティにおける電力供給がある程度改善し、多くの人々の生活が以前より良くなったからです」

AESエレクトロパウロ社は、低所得消費者を対象とする料金助成制度を導入することによって、利用者に請求書の受け取りを何とか納得させた。同社はまた、利用者に新しい、エネルギー効率の良い冷蔵庫、太陽熱ヒーター、電球を提供した。

AESエレクトロパウロ社がこのプログラムを始めたのは、ブラジル全土に押し寄せる重要な社会的・経済的変化に対応するためであった。

「ブラジルでは、人口移動が大きな問題になっています。人々が農村近郊を離れてサンパウロやリオデジャネイロなどの大都市圏へ移動しているのです」とAESエレクトロパウロ社の新規プロジェクト担当役員であるジョゼ・カバレッティは言う。「こうした人々は家賃を払う余裕がないため、公有地・私有地に侵入し、新しいファベーラをつくるのです。そして、新しいファベーラが急激に拡大すると、その周辺は重大な社会的・経済的問題を抱える地域になります。生活が不安定なため、住民は配電網から電気を盗まざるを得ないのです」

ブラジルのシンクタンクIETSのエコノミストであるアンドレ・ウラニは、ブラジルではこうしたルールを守らない行為の悪循環が国の経済に打撃を与え始めていると信じている。「私たちは、こうしたルール無視と違反行為が極端なまでに蔓延する状況に立ち至っています。電気料金を払っている人々が、未払いの消費者の分も負担する事態になっているわけです」

さらにウラニは、この悪循環はブラジルにおける将来の開発とインフラ整備を阻害する要因にもなり得ると予測する。「その意味では、新しい工場を開設したいと考えている企業が、『その地域内における』ルール無視の慣行のせいで電力料金が高くなっているような場所を選ぶかどうかは極めて疑わしいですね。この悪循環はどうにか断ち切らないといけません」とウラニは説明する。

wwwj-ejournal-energy9サンパウロ州の貧しいコミュニティ、ジャルジン・パンタナルにおける電気配線の改善状況を示す2枚の写真。違法な簡易コンセントが送電線に差し込まれ、でたらめな電気配線が行われていたころの写真(左)と、安全性改善対策が取られた後の写真(右)。この対策により、不法利用者の正規顧客への転換も進んだ。(CourtesyAESEletropaulo)

生活の質への投資

電気を利用している人々を顧客に変え、電気料金の支払いが大切なことを低所得者層に納得させるため、AESエレクトロパウロ社とブラジルの配電会社数社は、恵まれない地域コミュニティにおける生活の質の向上に投資した。リオデジャネイロ州のアンプラ、バイア州のコエルバ、ペルナムブコ州のセルペ、およびリオグランデ・ド・ノルテ州のコゼルンといった配電会社が、各地のファベーラで合計3万台の古い冷蔵庫を新しい、電力効率の良い型のものに置き換えた。ほとんどの場合、古い冷蔵庫はリサイクルに出され、その収益は当該コミュニティで慈善活動や再投資に使われた。

その他の世帯には、新しい、エネルギー効率の良い冷蔵庫の大幅割引販売や長期払い購入プランが提供された。冷蔵庫は家庭で最もエネルギーを消費する典型的な器具のひとつである。バイア州のコエルバは冷蔵庫を60%引き、24回払いで売っている。家庭用照明器具の電気代を減らすため、コエルバ、コゼルン、セルペの各社を所有する電力持ち株会社のネオエネルジアは、36万5000個の省エネ電球を寄付した。

「主な目的は、低所得コミュニティのエネルギー需要をそれぞれの家計に合わせて調整することにあります」とネオエネルジア社最高経営責任者のコレアは語る。「今お話している新しい冷蔵庫は、食糧の保存と健康の増進のための装置を改善したものですから、付加的な効果もあります。このプログラムは、持続可能な方法によるエネルギー消費を奨励するものです」

バイア、ペルナムブコおよびリオグランデ・ド・ノルテ3州の400を超えるコミュニティがすでにネオエネルジア社のプログラムを利用しているが、このプログラムにはショートの防止や消費を抑えるための電気配線の更新も含まれている。

低所得層の顧客が、再び料金を延滞するような事態におちいる恐れはないかとたずねると、AESエレクトロパウロ社のカバレッティは、キャンペーン活動を永続的に行うことで、人々に料金の支払いを続けてもらえると答えた。

「もし利用者がまた料金の支払いを怠るようになれば、配電網に投資しても何の意味もありません。私たちは、安全で安定した電力の供給が大切なことを人々に認識してもらうための教育キャンペーンを行っています」とカバレッティは言う。同社では顧客教育の担当者が料金を滞納しかけている家庭の相談に乗っている。

カバレッティによれば、2005年以来、AESエレクトロパウロ社はサンパウロ大都市圏の1240カ所のファベーラで、27万5000に上る住民、工場、商店を顧客として「正規化」し、110万の人々に安全で信頼できるエネルギーを提供している。

社会的包摂

ブラジルの配電会社は、こうしたプログラムは、送電の改善や効率の向上、電力顧客の適正化といったことを越える影響を及ぼすと考えている。すなわち、顧客層の市民性を育て社会的包摂を進めるというさらなる目標に向けた、企業の社会的責任に対応する活動を促進すると言うのである。

顧客として料金をきちんと支払い続けることは、新しい世界へのパスポートを手に入れることにもなり得る。というのも、支払明細書は一定の場所に住んでいることを示す証拠となるものであり、それによって居住証明書を発行してもらうことが可能になるからである。ブラジルでは、仕事を見つけるにも、分割払いで物を買ったりローンを組んだりする場合にも、居住証明書が必要である。

「これこそ社会的包摂というものです」とカバレッティは言う。

ネオエネルジア社のコレアも同じ意見である。「冷蔵庫を提供しているだけではないのです。こうした社会貢献プログラムによって、人々を個人として登録し、ちょっとした人間らしさを与え、彼らを社会の一部にすることができます」と彼は言う。

住民協会会長のロドリゲスは、パライゾポリスでは、責任あるエネルギー利用に関する社会的・経済的プログラムの評判は上々だと請け合う。「助成による割引料金で正規の電力供給を受けられるのは良いことです。けれども、私はそれ以上の前進があったと思います。パライゾポリスの住民は、電力会社の正規の顧客になったことで、非公式経済から離れる大きな一歩を踏み出したのです。またパライゾポリスでは、料金の支払い延滞が大幅に減ったことを付け加えておきたいと思います」

AESエレクトロパウロ社は、サンパウロ州で2009年末までに2万台の冷蔵庫の交換を計画しており、アフリカやアジアの発展途上国の都市に同様のプログラムを採用するよう促している。同社と国際銅協会、および米国国際開発庁は2009年4月27~29日にパリで開催されるエネルギー効率化世界フォーラム・展示会でパライゾポリスのケースを紹介する予定である。

ブラジル政府も、盗電防止・エネルギー効率化プログラムを拡大する可能性があり、配電会社がファベーラで活用した専門技術を参考に、現在、ブラジル全土での助成割引による冷蔵庫の販売を検討している。

 

エネルギー効率化のホント

wwwj-ejournal-energy9d

出典:全米エネルギー教育開発プロジェクト(TheNationalEnergyEduationDevelopmentProject)

 


本稿に述べられている意見は、必ずしも米国政府の見解あるいは政策を反映するものではない。


出典:eJournal”EnergyEfficiency:TheFirstFuel”
*上記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

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