国務省出版物
最良の燃料としてのエネルギー効率 – 国民によるエネルギー革命
国民によるエネルギー革命
イライザ・ウッド
政府が政策を使ってできることは、エネルギー効率を高めることまでである。実際の効果は、消費者ひとりひとりが生み出さなければならない。エネルギーの無駄遣いに対する認識が高まるにつれて、米国では生活のさまざまな分野において、市民が創造的でエネルギー効率の良い手段を工夫するようになっている。
イライザ・ウッドはエネルギー問題を専門とするライターで、米国を中心に活動している。彼女が書いた記事はhttp://www.RealEnergyWriters.comで読むことができる。
光熱費の支払いが大きいことは、消費者にとってまず何よりも、エネルギー消費を減らそうという気になる要素となる。では、その光熱費を支払う責任が消費者にない場合、どうやってエネルギーを節約する気を起させるか。
オハイオ州にあるオバーリン大学の環境研究プログラムの責任者であるジョン・ピーターセンは、大学の学生寮の電力使用量削減プロジェクトに取り掛かったとき、このジレンマに直面した。その答えは水晶球にあった。
ピーターセンは、どの学生寮がエネルギー消費量を最も減らせるかを競うコンテストを企画した。大学側は最初、学生たちが色とりどりの図表やグラフを分析することによって各自の寮のエネルギー消費をモニターするウェブサイトを提供した。しかしピーターセンは、このアプローチは「技術オタク向き」で、全学生向きではないことに気付いた。そこで、彼は「エネルギー球」、つまりその時々の各建物のエネルギー消費状況を違う色の光で示す水晶球状の物体を設計し、それを各学生寮のロビーに置いた。学生たちは、その球が赤く光っていれば自分の寮が大量のエネルギーを消費していること、緑色ならば消費量が比較的少ないことが一目で分かるようになった。
「エネルギー球が話のきっかけになったのは確かです」とピーターセンは言う。「人々がこの球の周りに集まり、それについて話をするようになったのです」。その上、学生たちはエネルギー効率の向上に本気で取り組むようになった。その結果、コンテストに優勝した学生寮では、エネルギー消費量を50%も減らした。
ピーターセンはこう語る。「優勝した寮の学生たちは、自動販売機のプラグを抜くようなことまでしました。彼らは1日も欠かさず、それもおそらく1日に何回も、自動販売機の脇を通ります。コンテストを始める前は、この自動販売機による寄生電力消費のことを考えてその前に立ち止まる学生はひとりもいなかったと、私は思います」
ピーターセンによると、学生たちは「エネルギーを消費する装置であふれた世界を歩いている」ことを意識するようになったという。「それこそ、私たちがこの取り組みによってしようとしていることです。つまり、人々に生活を支えるのに必要な資源の流れを意識させるということです」
そうすることで、環境科学者であるピーターセンは、省エネは個人の責任にかかわる行為であるという認識を米国人の間に育んでいる。米国太陽エネルギー学会によると、白熱灯の代替品への切り替えや窓の隙間などを塞ぐコーキング、電子式の電力量計であるスマートメーターの設置によって、省エネに関心を持つ米国人が1兆ドルのエネルギー効率化ブームを巻き起こし、860万人分の雇用の創出を後押しするという。
良い心がけ
サラ・スプーンハイムにとって、エネルギー効率を高めることは、技術を使って成果を挙げることを超える意味を持つ。それは精神的な行為である。スプーンハイムは、「フェイス・イン・プレイス」(FaithinPlace)という団体の副理事長であり、彼らはすべての宗教には共通の2つの大きな責任があると信じている。その2つの責任とは、互いを愛すること、そして物事を創り出すことに関心を持つことである。イリノイ州シカゴに本部を置くこの団体は、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教、ヒンズー教、仏教、シーク教、ゾロアスター教、バハーイ教、ユニテリアン派の信徒がエネルギーの利用方法を改善する手助けをしている。
このプログラムは、各種の基金からの補助、宗教団体や個人からの援助で、資金不足の信徒集団のための費用効果の大きいエネルギー効率向上手段を追求することを目的としている。そのために、スプーンハイムは、ShopIPL.org(http://www.shopipl.org)という全国的なオンラインストアを始めた。ここでは、教会がエネルギー効率の良い製品を割引価格で購入できる。このオンラインストアは、「インターフェイス・パワー・アンド・ライト」(InterfaithPower&Light)という、フェイス・イン・プレイスの関連団体で複数の州をカバーする組織から資金援助を受けている。この組織は、宗教団体が地球温暖化防止に向けて行動を起こすことを奨励している。
フェイス・イン・プレイスにおけるスプーンハイムの最新プロジェクトの内容は、二酸化炭素排出量削減に向けたルター派教会の取り組みに対する支援活動である。彼女は「クールな信徒集団」と呼ばれるプログラムを通じて、ルター派教会がエネルギーを浪費する電気器具の取り換え、LED(発光ダイオード)出口灯の設置などのエネルギー消費量削減対策を実施するのを手助けしている。「彼らは実験台になることに同意しました。私たちがすべての教会が何を必要としているかを見極めるために、彼らを使って実験することを認めてくれたのです」と彼女は語る。
信仰の場でエネルギー効率向上の取り組みを進めるに当たっては、こうした場所に特有の問題がある。まず、聖壇が使われるのは週に1回だけであることが一般的であり、極端な温度や湿度にさらすことのできない楽器類が置かれている場合もある。スプーンハイムは、エネルギー効率化のための努力の重点を建物のよく使われる部分に置いている。例えば、ホームレスの一時収容施設や貧しい人々のための無料食堂、それに学校など、エネルギー効率化対策が最大の効果をもたらす場所である。
フェイス・イン・プレイスはこうした活動を、宗教団体が行うより伝統的な活動、すなわち、食糧や衣服、避難所の提供などに先立つものであると見なしている。「私たちがそうした活動をすべてやり、どれだけ心を込めて仲間に愛を注いだとしても、この美しく脆弱な惑星の環境状態を放置するならば、それは何の意味もなくなるでしょう」とフェイス・イン・プレイスは言う。
車が家を動かす
2008年12月、着氷性の暴風雨によりマサチューセッツ州ハーバードで4日間にわたって停電が続いた際、電気技師のジョン・スウィーニーは「エネルギー自立」という言葉に新たな意味を付け加えることになった。
隣近所の住人が寒い家の中で身を寄せ合っている一方で、スウィーニーは自分のハイブリッド車を緊急の家庭用発電機として利用することによって、家族と共に暖かく過ごしていた。
スウィーニーは、彼の手柄は別に大げさなことではなかったと言う。しかし、彼はエネルギー機器をいじくり回すのが好きで、まだ学生だったはるか昔の1970年代には、卒業プロジェクトとしてハイブリッド車の図面を引いたこともある。
今では、スウィーニーは夏休みを2台の発電用風車を備えたヨットの上で過ごす。風車からの電力は、ヨットの冷蔵庫、照明器具、コンピューター、航海用電子機器を動かす大型電池の充電に使う。自宅では、家全体の電力消費量を計測する電力計がキッチンカウンターに置かれている。またこれより小型の「キル・ア・ワット」(Kill-A-Watt)メーターが数台あり、各電気器具の電力消費量をいつも計測している。こうした電力計を注意して見守ることで、スウィーニーの家族は光熱費を1ヵ月当たり約50ドル減らしている。
というわけで、ニューイングランド地方で厚い氷が付着して送電線が垂れ下がったとき、スウィーニーはあれこれいじくり回し始めた。そして、この停電に対処するための「簡単で費用効果の高い」方法が、屋外に出た所にあることに気付いた。
彼はインターネットのフォーラムから、トヨタプリウスには必要量を上回る発電能力があることを知っていた。この余分の電力を利用するためにはインバーター(変換機)が必要だったが、それが1台たまたま地下室にあった。彼はそのインバーターを車のバッテリーに直接ワイヤーで接続し、車から家まで長い延長コードを巡らして、冷蔵・冷凍庫や薪ストーブの送風機、テレビ、いくつかの照明器具につないだ。
車がハイブリッドであるため、4日間のガソリンの消費量は18リットルで済んだ。従来型の車ならば、同様の接続法を使えば、ガソリン消費量は150リットルを超えるだろう。
「プラグ差し込み式のハイブリッド車や純電気自動車が一般に販売されるようになる今後5年から10年の間に、こうした車の使い方は普通になるでしょう」とスウィーニーは言う。
時間的な制約は言い訳にならない
キャシー・クライテスは、電話インタビューを受けながら、台所の床をごしごし磨いている最中だといって恐縮した。ルイジアナ州在住で、母親であり祖母でもある彼女には、6年前に脳卒中を患ってから車椅子の生活を強いられ、家族を支えることができなくなった夫のチャーリーがいる。彼女はその夫を含む9人の家族の主な世話役であり、一瞬一瞬を最大限に活用している。
料理や食器洗い、洗たく、買い物の合間に、クライテスは時間を見つけてエネルギー効率化を提唱している。「私は、今という時代の中で、良き市民になろうとしているだけです。これは功徳です。私たちは、子どもや孫たちがいずれ実際に必要としたとき、必要とする物が一体どうなっているかを考えているのです」と彼女は言う。
彼女がエネルギー効率化について初めて知ったのは、NBCユニバーサルのサイファイ・チャンネルとエネルギー節約同盟(ASE)が主催したエネルギー効率改善のための住宅改装コンテストで入賞したときだった。
請負業者が新しい家電製品や照明、断熱材を設置すると光熱費が減るのを見て、彼女はエネルギーの効率化に夢中になった。そして、それを他の人たちにも売り込むことにした。ASEによれば、クライテスは「草の根のエネルギー効率化大使」となり、熱狂的な賛同者を多数生み出した。彼女は隣人や友人、教会の会員に気軽に話し掛ける。バトンルージュの市長が「エネルギー効率改善の日」を宣言すると、クライテスは記者会見に出席し、市民がこの運動にまとまって参加するよう呼び掛ける。メディア記者を招き、改装後の自宅の状態を見てもらうため家の中を案内して回る。省エネのためのヒントを盛り込んだブックマークをデザインし、関心のある人がいれば誰にでも配布する。夜、1日の仕事が終わり、家の中が静かになると、クライテスは「吸血鬼」退治のために歩き回る。吸血鬼とは、もう使っていないにもかかわらず、コンセントにプラグでつながっているために電気を吸い続けている電気器具や装置のことである。
彼女はこう語る。「今日の社会では、私たちは皆節約家になる方法を考えなければなりません。私がやっているのはそのための簡単な方法です。他の人たちにもやってみてほしいと思います。皆さんが何かを得たと感じるでしょう」
これまでに紹介した話――オバーリン大学のエネルギー球、フェイス・イン・プレイスの精神的な活動、スウィーニーの何でもいじくり回してみるという発想、クライテスのボランティア精神――は、省エネに努める米国人の懸命な取り組みを示す例の一部にすぎない。こうした熱心な取り組みは、これからも続くだろうか。評論家の中には、エネルギー価格が低下すれば米国人はエネルギー効率化などということは忘れてしまうのでないか、と心配する人もいる。一方この数年間のエネルギー価格高騰が米国に与えたショックは非常に大きく、省エネを目指す動きが後退することはないだろうと言う人もいる。さらに、電力計の高度化やオバーリン大学でのエネルギー球の開発のような計測技術の進展も、省エネを推進する要因になる。
スウィーニーは、地元の新聞に寄稿した論文で次のように書いている。「パソコンとインターネットを生み出した電子革命は、私たちがエネルギーを作り出し、貯蔵し、利用する方法にもおそらく変化をもたらすだろう。そうした変化を政治のシステムを通じてサポートするとともに、科学や技術工学の道を追求するよう子どもたちを励ましていただきたい。この国は『枠にとらわれないやり方』で物事を考えることを始めなければならない。そして、現在のエネルギー問題を環境に優しい方法で解決するため、技術面で優れたあらゆる人材を結集する必要がある」
エネルギー効率化のホント
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出典:eJournal”EnergyEfficiency:TheFirstFuel”
*上記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。