About THE USA

国務省出版物

« CONTENTS LIST

最良の燃料としてのエネルギー効率 – エネルギー効率化を長期的に刺激する

エネルギー効率化を長期的に刺激する

 

ステイシー・エンジェル
ラリー・マンシュエティ

2008年半ば、原油価格は史上最高値を付けたが、その後、世界各国の経済に連動するように急落した。米国では新しい大統領が就任し、経済危機はその取り組むべき最優先課題となった。オバマ大統領は、エネルギーと経済という結合した問題を、自らが打ち出した景気回復計画の最前線に位置付けると誓った。しかし、今回の危機が起こる何年も前から米国のエネルギー産業とそれを監督する政府当局者は力を合わせ、米国全体のエネルギーインフラの効率化を図る新たな方法を開発し実施してきた。

ステイシー・エンジェルとラリー・マンシュエティは、「エネルギー効率化のための全米行動計画」に対する連邦政府による援助の監視・監督に当たっている。エンジェルは、米国環境保護庁(EPA)の環境保護パートナーシップ部門に所属し、エネルギー効率化を含むクリーンエネルギーの利用を通じての炭素排出量削減に向けた取り組みを支援する立場にある。マンシュエティは、米エネルギー省(DOE)配電・エネルギー信頼性局にあって、電力政策の分野で同省上層部を補佐するとともに、電力規制政策を通じてエネルギー効率の向上に取り組む各州を支援している。

「2009年米国再興・再投資法(景気対策法)」が2月17日に成立し、かつてない規模の投資により米国おけるエネルギー効率化を刺激することとなった。

米国の天然ガスと電力の70%を消費している家庭、企業、学校、政府、産業においてエネルギー効率の良い技術や慣行に投資することは、雇用創出のためにできる最も建設的で費用効果の高い方法のひとつである。同時に、そうした投資は、エネルギー価格の高騰、エネルギーの安全保障と自立、環境問題、気候変動といった諸課題への短期的な取り組みともなる。さらに、エネルギー効率化を追求することによって、向こう数十年間に予想される電力・天然ガス消費量の伸びの50%またはそれ以上を賄える可能性があり、米国全体で支払っているエネルギー費用を何十億ドルも節約し、温室効果ガスその他の大気汚染物質の排出を大幅に減らすことにもつながるかもしれない。

このようにエネルギー効率化を推進する大きな機会が訪れたことから、全国の多様なステークホルダー(利害共有者)を代表する60以上の主要組織は2006年、「エネルギー効率化のための全米行動計画」を共同で策定した。これらの利害共有者の多くは、実際にエネルギー効率化を実現できる組織や団体、すなわち、電力・ガス事業者や、それを監督する各州の機関などである。

 

wwwj-ejournal-energy3aペンシルベニアの山の頂を越えて伸びる電線。近年、広域的な停電が多発して米国の送電システムの弱点があらわになり、電力業界と政府当局者が改善に乗り出している。(©APImages/GeneJ.Puskar)

この行動計画は、エネルギー効率化への投資が十分に行われない原因となっている主要な障害を特定し、費用効果の高いエネルギー効率化という目標の達成に向けて5つの重要な政策提言の概略を示し、目標の達成および取り組みの進捗状況評価のための政策枠組みとして「ビジョン2025」を打ち出している。エネルギー効率向上への投資増大を阻んでいる障壁は、異なるタイプの顧客間やエネルギー事業会社の内部に、広範に存在している。例えば、一部の賃貸住宅の入居者のように光熱費を直接支払っていない顧客の場合、そのための費用を払ってまでエネルギー効率の良い照明やテレビに切り替える気にはならない。というのも、月々の光熱費の節約分が家主の懐に入る仕組みになっているからである。これを、われわれはエネルギー効率化をめぐる「インセンティブの分裂」と呼ぶ。さらに、エネルギー供給事業者が効率化を支援することで顧客のあらゆるエネルギー需要を賄うためのコストを減らせる可能性があるものの、こうした節約を実現する「ベストプラクティス」型のアプローチは、必ずしも文書による裏付け作業が十分にできておらず、公共エネルギー計画の策定や財源確保の取り組みにも導入されていない場合が多い。

行動計画は、全米の州、電気・ガスなどの供給事業者、顧客から幅広く支持されている。今日までに120を超える組織が行動計画に盛り込まれた提言の支持を表明し、ビジョン2025推進に積極的に寄与する姿勢を明らかにしている。米国環境保護庁(EPA)と米エネルギー省(DOE)はこの官民合同の構想を側面から支える立場にあり、従って、行動計画が表明する見解や声明は加盟組織自身のものである。それは、全米各地の意思決定者が広く部門横断的に支持している強力なメッセージと言える。

ビジョン2025は行動計画の中の最重要文書である。米国の電気・ガス供給事業者の規制構造を考えれば、エネルギー効率化を阻んでいる障壁を取り払うための政策の多くは、州レベルで推進しなくてはならない。それゆえ、ビジョン2025は、極めて費用効果の高いエネルギー効率化推進のための政策枠組みを打ち出す一方で、地方・州・地域による状況と規制構造の多様性を認めている。このため、政策の詳細と実施の決定は州レベルの適切なプロセスに沿って決定されることになる。つまり、時間の経過の中で更新し改善することが可能な枠組みなのである。

wwwj-ejournal-energy3bカリフォルニア州では2005年、うだるような暑さに加え、1本の基幹送電線が使用不能になったことが原因で、50万人の住民への電力供給がストップした。写真は故障した百万ボルト送電線が表示された高圧送電線網の模型を指差す、カリフォルニア・インディペンデント・システム・オペレーター社の運用部長、トレイシー・ビブ。(©APImages/KevorkDjansezian)

ビジョン2025は、20年以上に及ぶエネルギー効率化の経験を生かして、10項目の実施目標を定めている。それらの目標の下に設定された包括的な政策手段のリストを通して、取り組みの進捗状況を測定する。2007年末時点でビジョン2025にはかなりの前進が確認できたが、まだやらなくてはならないことがある。約半数の州が、エネルギー効率化プログラムを創設してすべての顧客との接触を図るとともに、家屋やビルの新築に際して高いエネルギー効率を義務付ける建築法規を採用している。さらに約3分の1の州が省エネ目標を設定しており、エネルギー供給事業者よるエネルギー効率化支援を阻害している要因の解消に取り組んでいる。例えば、事業者がエネルギー販売を増やすことによって、利益を上げることが不可能になるような政策を打ち出した州もある。

一方エネルギー効率化のための、一貫性のある安定的な財源の確保については、各州の取り組みにまだ大きな前進は見られていない。各州の規制プロセスでは、エネルギー供給事業者が認可を受けて行った設備改善のコストについては顧客から徴収する料金の中で回収することが認められているため、事業者による発電所・送電線・パイプライン建設には安定した資金が入る。各州は、行動計画の目標を達成するため、光熱料金システムを通じてエネルギー効率化策の財源を確保する政策を導入することもできよう。

今日までに明らかになっている成功と課題を踏まえて、各州、エネルギー供給事業者、その他の組織は、エネルギー効率化プログラムに現在のところ年間約20億ドルを支出している。この水準の投資によって避けることのできるエネルギー生産は、発電量500メガワットの発電所30基分以上に相当する。また900万台の車両が1年間に排出する温室効果ガスの発生を防ぎ、エネルギー消費者の支出を年間60億ドル近く節約している。

議会が承認しオバマ大統領が署名した景気対策法により、強く望まれていた財源の増額が実現する。これにより現行レベルの数倍の財源が確保でき、エネルギー効率化から一層のメリットを引き出すことが可能になる。しかし、この財政支出をもってしても、行動計画が目指す仕事が完了できるわけではない。米国のビル・住宅には費用効果の高い省エネを実現できる大きな潜在性があり、その規模は景気対策法に基づく活動で実現できる規模を上回っているのである。さらに、景気対策法の下で、訓練と経験を積んだエネルギー効率化要員の規模も拡大する。人員が増えれば、効率改善の対象となる既存のビルも増えていくだろう。政策担当者は直ちに行動を起こして、もともと行動計画で確認されているエネルギー効率化障壁の除去に向けた取り組みが長期的に継続するよう計らうべきだろう。それには、顧客・エネルギー事業会社向けのエネルギー効率化のための投資インセンティブのあり方を再検討する必要がある。その一環として、事業者が、エネルギー計画の策定に当たって発電や天然ガス供給について考えるのと同じようにエネルギー効率に配慮することで、低コストを実現できるような仕組みを作るにはどうしたらいいかを検討するといいだろう。行動計画にあるビジョン2025の枠組みは、各州が長期にわたりエネルギー効率化の促進を継続し、雇用を維持するにはどうすべきかを探る手助けとなる。

景気刺激策が実施に移される中で、行動計画に基づいて、数多くの報告書や手段、技術支援が、州政府や地方自治体、それに各種のエネルギー効率化プログラムに対して引き続き提供されるだろう。行動計画が持つ資源の一部となっている既存のベストプラクティスや専門知識は、景気刺激策の一環として提供される資金が早く効果的に使われるための手助けとして活用できる。また景気刺激関連財源がなくなった後も、エネルギー効率化を支える政策環境の開発を後押しするものとして引き続き活用できるだろう。

「行動計画」のウェブサイト:http://www.epa.gov/eeactionplan/

 

エネルギー効率化のための全米行動計画

  • 顧客、エネルギー供給事業者、市場、政策決定者には皆、エネルギー効率化に向けた取り組みにおいて果たすべき役割がある。
  • エネルギー効率化はただでは実現できない。しかし、エネルギーの新たな生産と供給に比べれば安上がりである。
  • エネルギー効率化には適切な政策枠組みが必要である。
  • あらゆる費用効果の高いエネルギー効率化に向けた取り組みの進捗状況を評価することが重要である。

 

エネルギー効率化のホント

wwwj-ejournal-energy-cover1b

(© Patrimonio Designs Limited)

米国で1990年に成立した法律は、家電メーカーにエネルギー効率の改善を義務付けている。その結果、今日の給湯器、冷蔵庫、洗濯・乾燥機は、25年前と比べて使用エネルギーがはるかに少ない。

出典:全米エネルギー教育開発プロジェクト(TheNationalEnergyEduationDevelopmentProject)

 


このインタビューで表明されている意見は、必ずしも米国政府の見解や政策を反映するものではない。


出典:eJournal”EnergyEfficiency:TheFirstFuel”
*上記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

« CONTENTS LIST

Stimulating Efficiency for the Long Term

Stimulating Efficiency for the Long Term