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核兵器のない世界 – 力の均衡をめぐる米露の駆け引き

米国とロシア
力の均衡をめぐる米露の駆け引き

 

ドミトリ・トレーニン

ロシアの指導者たちは、核兵器のない世界という考えを公に支持しているが、このビジョンを前進させる明確な戦略を欠いている。ドミトリ・トレーニンはカーネギー・モスクワ・センターの所長である。

1986 年、当時のソ連最高指導者ミハイル・ゴルバチョフは、自らが考える核兵器のない世界のビジョンを提示した。ゴルバチョフの「新しい思考」は、核軍備競争を逆転させ、一連の戦略兵器削減合意の引き金となった。

それから約25 年後、ロシア指導部は核抑止論に依存する政策に戻ってしまっている。ロシアの指導者たちは、オバマ大統領の核兵器のない世界を目指す長期的ビジョンに異議 を唱えず、ロシアは備蓄核兵器の削減を目指す新たな協定を結ぶ交渉を続けているが、その一方で、今日のロシアの安全保障関係者の思考には、冷戦時代以上に 核抑止力を重視する考え方が定着している。これには、少なくとも2 つの理由がある。

第1に、ロシアは軍事大国としては通常戦力が比較的弱い。ゴルバチョフ時代のソ連は、ソ連以外の世界各国の合計数を上回る戦車を配備し、東欧には高 度即応態勢にある50 万の兵士を維持していた。10 年後、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(当時)は、チェチェンの分離主義を抑えようとした際、100 万のロシア軍のうちで、本当に使えるのは約6万5000 に過ぎないことに気付いた。ソ連の終焉以降、中国はロシア製戦闘機をロシア空軍よりもはるかに多く購入している。

現在のロシアの軍改革では、既存の軍組織の解体が、21世紀型の後継軍組織の構築よりもはるかに進んでいる。通常戦力において、ロシアは今や欧州と アジアの両側面で弱者であり、これはかつてなかったことである。核抑止力は、ロシア政府のこの戦略上のジレンマに対する答えなのである。

第2に、ロシアは、大国であることを特徴づける要因である、戦略上の独立性の保持を強く主張している。これには、核兵器保有量という点で、米露間に大まかな均衡が必要である。核兵器抜きでは、両国間の軍事力の均衡は、米国側に一方的に有利になる。

 

wwwj-ejournals-nuclear9aロシアは通常戦力が比較的弱いため、核抑止力に頼っている (© AP Images/Alexander Zemlianicenke)

 9 カ国条約:米国、英 国、日本、フランス、イ タリア、中国、ベルギー、 オランダ、ポルトガルが 調印。ワシントン会議は、 この高遠な目標を持った 条約の締結をもって 1922 年2 月6 日に終了 した。この条約は、米国 の元国務長官ジョン・ヘ イが1899 年に初めて表 明した中国における「門 戸開放原則」を擁護する ものであった。調印9 カ 国は、帝政廃止後の中国 の領土保全を尊重すると ともに、当該地域への出 入りを制限するいかなる 措置も講じないことで合 意した。これにより、各調印国は、広大な中国市場にお ける通商権を獲得することとなった。

ワシントン海軍軍縮会議は、第1 次世界大戦の惨禍を 踏まえて、主要軍事国が協力するという楽観的な未来像 を示した。この会議は、その後の、とりわけ「冷戦」後 半の軍備管理交渉の先例となった。残念ながら、1921 年と1922 年に調印されたこれらの条約には、確固とし た検証と実施のメカニズムが欠けていた。調印国の多く、 特に日本は、その後の10 年間にこれらの条約に違反し、 そうした違反が太平洋における第2 次世界大戦勃発の一 因となった。

wwwj-ejournals-nuclear9bロシアは核兵器によって中国の通常戦力の優位性を相殺している。写真は、2009 年の中露軍事演習に参加する中国兵(© Imaginechina via AP Images)

ここで非常に重要な一歩は、米国とロシアのミサイル防衛を共同のシステムとすることであろう。これによって、「相互確証破壊」に頼る必要がなくなる であろう。そして、抑止力はようやく過去のものとなる。ロシア政府はこの目標に向けての協力に原則的に賛成しているが、現在のところ、こうした新たな戦略 に基づく世界に到達するための明確な戦略を欠いている。

核兵器のない世界とは、これまでとは形を変えた世界であろう。そうした世界で求められるのは、大国(とりわけ、米国、ロシア、中国)間の相互信頼、 戦略的防衛に関する協力、そして大国間の広範な安全保障協力を通じて、通常戦力の均衡(および不均衡)を過去のものとして捨て去ることであろう。

これは誰の目から見ても難しい注文である。しかし、それなしには、核兵器のない世界は夢であり続けるであろう。あるいは、悪夢かもしれない。

 


本稿に示された意見は、必ずしも米国政府の見解あるいは政策を反映するものではない


出典:eJournal “A World Free of Nuclear Weapons”

*上記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

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U.S.-Russia Balancing Act

U.S.-Russia Balancing Act
Dmitri Trenin, Director, Carnegie Moscow Center
Russian leaders publicly support the idea of a world free of nuclear weapons but lack a clear strategy to advance this vision.