About THE USA

国務省出版物

« CONTENTS LIST

核兵器のない世界 – 安全策をとる

脅威と約束
安全策をとる

ブレント・スコークロフトへのインタビュー

ブレント・スコークロフトは、1974 年から77 年までジェラルド・フォード大統領の下で、また1989 年から93 年まではジョージ・H・W・ブッシュ大統領の下で、国家安全保障担当補佐官を務め、さらにリチャード・ニクソンからジョージ・W・ブッシュに至る共和党大 統領にも仕えた。スコークロフトは、「核兵器のない世界」を達成しようとする試みにはすべて潜在的な危険があると見ている。そして、世界中の核兵器備蓄 を、それが決して使われることのないような状態に変える戦略の方がよいと主張する。現在、ワシントンで国際ビジネスコンサルティング会社「スコークロフ ト・グループ」の代表を務めている。聞き手は、E- ジャーナルUSAの編集長ブルース・オデッセイ。

: そもそも米国とソ連は、なぜこれほど大量の核兵器を備蓄したのですか。

スコークロフト:基本的に、米国の核兵器に対する考え方、つまり、核兵 器の価値は、ソ連との通常戦力の不均衡を補う ことにありました。米国は、通常戦力における劣勢を補うために核兵器の恐るべき潜在能力に期待したのです。そして、ソ連が米国の核戦力における優位を相殺 しようとして核兵器を開発したので、米国は、量と質の両面で優位性を維持するため、核兵器を開発しなければならないと考えたのだと思います。その結果、激 しい競争になったのです。 その後、私たちは、その競争に対処するために、さまざまな仕掛けを開発しました。例えば、核兵器の恐ろしさを強調した「相互確証破壊」という概念、つま り、いったん、存続可能な社会としての敵を破壊したら、さらなる兵器を必要としないという考え方などです。 これらすべての面がまじり合って、冷戦時代の核兵器競争になったのです。

:さて、オバマ大統領は、「核兵器のない世界」を目指すと繰り返し述べています。それでもなお、この国の一部の人 たちは、この考えをよくないと思っています。あなたはどうお考えですか。

スコークロフト:この考えにはいくつかの重大な欠陥があると思います。 第1 に、私は、そんなことはそもそも達成でき ないことだと考えています。それを達成しようとすること自体が、核兵器が存在する現在の世界の安定性を高めるための、また、おそらく達成可能であるがゆえ に望ましいのではと私が考える目標、つまり、核兵器が決して使用されないようにするという目標を達成するための、より実際的なことをいくつか行う妨げにな る恐れがあると、私は考えます。
さらに、核兵器の数をゼロにすることはできないと私は考えていますが、もし何らかの方法でそうなったとしても、世界の他のことが何も変わらなければ、世界 は大変危険で、不安定なものになりかねないでしょう。私たちは、核兵器を製造する技術を消し去ることはできないし、核兵器ゼロの世界では、ほんの数個の核 兵器がとてつもない影響を及ぼす可能性があります。従って、そのような世界は、極めて不安定になると思います。
ですから、私なら、そうするのではなく、危機が発生した場合に、核兵器の力に訴える可能性が最も低くなるように、保有する核兵器の性質を変えることに焦点 を当てるでしょう。例えば、危機が発生した際に感じる恐怖のひとつは、先制攻撃をかける側が、報復攻撃を受けても生き残ることのできる量にまで相手の保有 する兵器を十分に破壊できることです。双方が保有する核兵器の性質を、そのようなことが起こりそうにないようにする、あるいは、それが不可能であるように することはできます。

 

wwwj-ejournals-nuclear3aイランのブシェヘル原子力プラントで働く技術者たち。イランは爆弾製造に使いうるウランの濃縮を続けている(© AP Images/ISNA, Mehdi Ghasemi)

:それを説明していただきたいのですが。

スコークロフト:では、説明しましょう。私たちの核兵器保有量が、1 隻あたり200 個の核兵器を備えた潜水艦10 隻で構成されているとしましょう。もし、相手側が港でそのうちの8 隻を捕捉し、数個の核兵器を使って8 隻全部を破壊することができれば、それは、かなり魅力的な選択肢になるでしょう。一方、双方がそれぞれ、単一核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイル (ICBM)を1000 基保有しているとすれば、それを破壊するには1000 基以上のICBM が必要になります。従って、この場合は、先制攻撃をしたら、有利になるよりむしろ、不利になるのです。これは、この問題についてソ連と交渉する際に行うべ きだと私が考える一種の計算の実例を挙げたに過ぎません。つまり、これらの核兵器が決して使われる可能性がないような相互の核戦力構造をつくり出すという ことです。

:米国とロシアのほかにも核保有国があります。では、あなたの戦略はそうした国にどのように適用されるのですか。

スコークロフト:私なら、まず米国とロシアの核兵器から始めて、その後に中小の核保有国を含めるでしょう。主要国に よる核削減と関連付けて、新たな国が核兵器を取得することを阻止する強力な議定書が策定されることを望みます。

:核兵器の拡散を抑えることを目的とした既存の議定書がありますが…

スコークロフト:私にとって、それはすべて勝算を見極め、安全策をとる ことなのです。私たちの目標が核兵器をゼロに することなのか、核兵器が決して発射されないようにすることなのかにかかわらず、結果は同じでしょう。つまり、核兵器は使用されないということです。ただ 私には、核兵器が決して使われないようにするために考え出された措置の方が、核兵器をゼロにすることよりも取り組み易いように思えます。

:あなたの戦略であろうと、オバマ政権が提唱する「核兵器なき世界」という戦略であろうと、どちらも多くの国の政 治的意思が必要ですね。そうした政治的意思はどこから来るのでしょうか。

スコークロフト:国家が核兵器を持つ理由はさまざまです。抑止力とし て、威信のため、あるいは、おそらく威嚇したり、強制したりするためです。核兵器削減や核廃絶の試みは、核兵器を保有することが魅力的である理由をなくす ような措置を伴う必要があります。核不拡散条約において、核兵器をゼロにしようという訴えが、完全かつ普遍的な核軍縮という同様の訴えを伴っているのは、 偶然ではないと私は思います。完全かつ普遍的な軍縮 を成し得たら、まさにその事実によって、核兵器がゼロということになるでしょう。核兵器ゼロを政策目標とすることについて私が心配していることのひとつ は、その目標を達成しようとしている間に、核戦争の可能性を減らすのに役立つ手段を講じること、核戦争の可能性を減らすために出来るいくつかのこと、を無 視してしまう恐れがあることです。
核兵器をゼロにするという目標を掲げた場合、私たちは直接、また、できるだけ早く、目標に到達しようとする傾向があるからです。そして、単に数を削減する だけのプロセスになってしまうと、世界は極めて不安定になり、危機が発生した際に、先制攻撃をかけようする動機が強まる可能性があります。これらの理由に より、私は、この問題についてもっと慎重なアプローチを取るべきだという考えに傾いています。

:核兵器の削減や廃絶は、どのように検証し、また守らせるのでしょうか。

スコークロフト:特に最初は、かなり踏み込んだ検証が必要でしょう。その点は間違いありません。しかし、徹底的に踏 み込んだ検証をするならば、ごまかし行為のお陰で決定的な優位を与えかねない検証より、主要国にとって受け入れ易いでしょう。
検証は、間違いなく容易ではないでしょう。しかし、現在、数え方に関するルールがあります。そして、完全ではないものの、それぞれの側が約束を果たしたことを検証する方法があります。私たちは、それを改善していくことができるし、またそうすべきです。

:核兵器ゼロのほうが少数の核兵器よりも実施しやすいのではないのですか。

スコークロフト:必ずしもそうではありません。しかし、とにかく一気に ゼロになるわけではありません。ですから、ゼロにしていく過程で、削減措置がきちんと実行されていることを検証しなければならないのです。そして、たとえ ゼロに到達したとしても、どうやってゼロを監視するのですか。ゼロのほうが数を監視するより易しいように見えるかもしれませんが、必ずしもそうではないの です。すべての検証問題は、どのルートをたどろうと難問です。

 

 

wwwj-ejournals-nuclear3b北朝鮮の核実験を祝うピョンヤンの兵隊と市民(© AP Images/Kyodo, File)

:これまで核兵器保有国について話してきました。では、テロリストの手に核兵器が渡るのを防ぐ最も安全な方法は何ですか。

スコークロフト:実際問題として、核兵器をゼロにするよりもずっと前 に、テロリストが核兵器を入手できないようにする必要があると私は考えます。これは緊急の問題で、この点において協力することは、大多数の国の国益にか なっています。確かに、すべての国ではありませんが、ほとんどの国の国益にかなっています。従って、核兵器の拡散を防ごうとする共通の動機が存在していま す。

:あなたは世界が核戦争を回避できると楽観視していますか。

スコークロフト:現在のところは、楽観しています。大規模な核攻撃の可 能性は、劇的に減ったと思います。しかし、そ れは、核兵器そのものによるというよりも、核兵器保有国間の関係が変化したことによるところが大きいのです。私は、核不使用それ自体が、核使用に対する障 壁となり、核不使用を強化すると考えます。イラン、北朝鮮など核兵器を持つ必要があると考える国に対し、安全だと感じるために核兵器を持つ必要はないのだ ということを説得するため、私たちができることはたくさんあります。
私たちは、その点において、いくらか前進したと思います。20 年前を振り返ってみると、現在よりもはるかに多くの国が核保有国になることを目指していました。しかし、油断はできません。イランで失敗したら、大きな問 題を抱えることになります。自分たちにはウランを濃縮する権利があるというイランの主張が成功を収めた場合には、その結果として、必ずしも核兵器を欲して いないにもかかわらず、イランへの対応が必要になった時に備えて核兵器を保有したいと願う同じ地域内の国、例えば、エジプト、サウジアラビア、トルコや他 の地域の国が、次から次へと出てくる可能性があります。そうなると、世界はずっと困難な状況になるでしょう。

:どのようにしてイランと北朝鮮に核兵器を持つ必要がないと説得するのですか。

スコークロフト:イランの状況の方が、その位置している地域の性質上、 より危険だと考えます。ウラン濃縮をイラン国 内でこのまま継続して行うことは、たとえ核兵器製造能力を持つことが目的であろうとなかろうと、彼らの安全保障を強化することにはならず、弱めるものだと いうことを、私たちはイランに納得させなければなりません。それは、あの地域の他の国が追随する可能性があり、その結果、世界のあの地域の環境がより脅威 をもたらす恐れがあるからです。
米国はまた、おそらくロシアと協力し、イランが国際原子力機関(IAEA)の規則に従う限り、拒否権を行使することなく、原子炉の燃料となる濃縮ウランの 提供を保証する制度を作り出す用意があると提案すべきです。イランは、そうして提供される濃縮ウランを、自国内で濃縮した場合よりもはるかに安い価格で入 手できるでしょう。そして、IAEA が、使用済み燃料を引き取るのです。私たちは、まだそこまで達していません。米国とロシアは、そのような取引を提案する方向で進んでいます。しかし、他の 理由で、核濃縮能力を持つかどうかについて決断を下していない国に対して、それは強力な論拠となるでしょう。私なら、次のようなことを実行するでしょう。 北朝鮮に対しては、私なら、北朝鮮が核兵器を断念すれば、米国は米朝関係を正常化する用意があり、中国その他の関係国と協力して、北朝鮮が安全保障上の不 安や米国による脅威を感じることのない、安全保障の枠組みを提供すると宣言するでしょう。それはうまくいかないかもしれませんが、試してみる価値はあると思います。


本稿に示された意見は、必ずしも米国政府の見解あるいは政策を反映するものではない

核の転換点
wwwj-ejournals-nuclear3c

(2009 年5 月、ホワイトハウスで核兵器廃絶のためのキャンペーンを行う(左から)キッシンジャー、シュルツ、ナン、ペリーの各氏 © AP Images/Gerald Herbert)

米国の国家安全保障を担当した元高官の多くは、共和党、民主党を問わず、今や核兵器の廃絶を支持している。その 先頭に立っているのが、共和党大統領の下で国務長官を務めたヘンリー・キッシンジャーとジョージ・シュルツ、民主 党大統領の下で国防長官を務めたウィリアム・ペリー、および元民主党上院議員で上院軍事委員会の委員長だったサ ム・ナンである。この4 人は、2007 年1 月4 日と1 年後の2008 年1 月15 日の2 度にわたってウォール・ストリート・ ジャーナル紙に連名で、それぞれ「核兵器のない世界」、「核なき世界に向けて」という重要な論文を寄稿した。

この4 人の元高官へのインタビューを含んだドキュメンタリー映画「核の転換点」(Nuclear Tipping Point)が公開 された。この映画に関するウェブサイトで、参考資料を閲覧することができ、希望者には同映画のDVD の無料配布も行っている。


出典:eJournal “A World Free of Nuclear Weapons”

*上記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

« CONTENTS LIST

Playing Percentages

Playing Percentages
An Interview With Brent Scowcroft, Former U.S. National Security Adviser
Zero nuclear weapons could make for an even more unstable world.