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核兵器のない世界 – 米国核政策の転換

脅威と約束
米国核政策の転換

ジョセフ・シリンシオーネ

オバマ大統領は、米国の政策として、世界にある核兵器の究極的な廃絶を目指すことを決めた。大統領は多くの障害に直面しているが、とりわけ目立つの がこの政策に対する冷やかで懐疑的な見方である。ジョセフ・シリンシオーネは、核兵器政策と紛争解決への取り組みを助成する「プラウシェアズ基金」の理事 長を務める。

2009 年4 月5 日、オバマ大統領はプラハで、「核兵器のない世界の平和と安全」を追求すると誓った。2010 年に結ばれる主要な条約と開催予定の交渉や会議は、高まる核の危険を減らすために米国として新たな戦略を展開するという約束を、同大統領が実際に果たすこ とができるかどうかを示すものになるであろう。

現在の脅威

世界の人々は、4 つのタイプの核の脅威に直面している。第1 の脅威は、テロ集団が核兵器を入手し、大都市で爆発させる可能性である。第2 は、現在9 カ国によって保有されている既存の2 万3000 発の核兵器のひとつが、偶発的、無許可、もしくは意図的に使用される危険である。第3 は、新たな核武装国の出現である。北朝鮮は現在、核を保有しており、おそらくイランも将来、核保有国となり、これに続く国がさらに出る可能性もある。最後 に、核兵器の拡散を完全に阻止するには至らなかったものの、核拡散を遅らせてきた条約および管理体制の連動するネットワークが崩壊する可能性である。

1990 年代においては、これらの脅威は、次のような賢明な政策によって軽減された。

  • 世界の核兵器の96%を保有する米国とロシアが、交渉により双方の核兵器の保有量を大幅に削減する条約をまとめた。
  • ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタン、イラク、南アフリカなど多くの国が核兵器および核兵器計画を放棄した。
  • 米国、ロシアその他の国々が、核爆弾の材料の備蓄を安全に管理し、削減する計画を開始し、それによって、テロリストが爆弾を入手または製造する危険が減った。
  • 数十カ国が核不拡散条約に加盟し、同条約に基づく国際的な規制の強化と、世界のほとんどすべての国への適用拡大に協力して取り組んだ。

しかし、インドとパキスタンによる核実験、北朝鮮とイランによる核開発計画などいくつかの深刻な後退もあった。2001 年、ジョージ・W・ブッシュ政権は、同政権が敵対的であるとみなし、核兵器を入手する恐れがある外国の政権を排除するため、米国が軍事行動をとることを強 調する戦略を採用した。このドクトリンがイラク戦争の指針となり、同戦争を正当化する根拠となったのである。

 

 

wwwj-ejournals-nuclear2aウラン生産用の炉で使われるレンガと砂のそばに立つ2 人の作業員。この写真からも、北朝鮮が核開発計画を加速させていることがうかがわれる (© AP Images/S.S. Heckerm, HO)

この戦略は失敗に終わった。2000 年代には、以下の通り、核の脅威が大幅に増加した。

  • アルカイダのようなテログループが勢力を伸ばす一方で、核物質を安全に管理するプログラムはそれに対応できず、 核テロリズムの危険が高まった。
  • 米国がロシアとの核兵器削減交渉を停止し、両国は、地下要塞を含む通常兵器を標的として核兵器を使用する政策案を作成した。
  • 北朝鮮とイランの核計画が加速し、過去5 年の間に、それまでの15 年間に比べてさらに進んだ。
  • 核不拡散の枠組みが弱体化して、多くの人が、核不拡散体制は崩壊し、新たに多くの国で核兵器計画が始まるのではないかと危惧した。

ニューヨーク・タイムズ紙の記者、デービッド・サンガーは、最近、次のように書いている。イラクが大量破壊兵器を保有していないことが明らかになっ た後、「ブッシュ氏の見解の信憑性が大いに低下したため、ブッシュ氏は、米国が単独行動するのに十分差し迫った脅威、または重大な脅威とは何かについて話 すのをやめた」

 

新たな政策

オバマ政権は、新しい戦略的アプローチをとっている。ブッシュ政権よりも単独行動的ではなく、クリントン政権よりも包括的なアプローチである。

このアプローチは、核の脅威は互いに関連しているという認識から出発している。例えば、核不拡散条約の規則を実施できなければ、核兵器を開発する新 たな国家が出現する可能性が高くなる。そうなれば、今度は、テロリストが兵器を入手する可能性のある場所が増える。その逆もまた真実である。世界中の核兵 器を大幅に削減できれば、核物質の安全を確保し、核物質を廃絶するために必要な国際協力体制が生まれるのを後押しするであろう。その結果、テロリストが核 爆弾を盗んだり、製造したりする可能性が低くなる。

オバマ戦略は、核の脅威を削減する上で、米国の核政策が中心的な役割を果たすことを認識している。「過去に核兵器を使用したことがある唯一の核保有 国として、米国には行動する道義的責任があります。米国だけではこの行動で成功を収めることはできませんが、その先頭に立つことはできます」とオバマ大統 領はプラハで述べた。

オバマ大統領は、ロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領とともに、両国の核兵器の新たな削減に向けて交渉を開始した。以前の米露共同声明は、他 国の核兵器の脅威に焦点を当てたものが多かったが、2009 年4 月1 日のオバマとメドベージェフの共同声明では、米露両国の核兵器と義務に焦点が置かれた。両大統領は次のように述べた。

「われわれは、米露両国が核兵器のない世界の実現に取り組むことを約束する一方で、この長期的目標では、軍備管理および紛争解決措置に新たに重点を置くこと、また、そうした措置をすべての関係国が全面的に実施することが必要になると認識している」

この新しい計画の要点は、核兵器の「削減」、「安全確保」、「防止」であり、この3 つのレベルのすべてにおける取り組みが同時に行われることになるであろう。

  • 世界にある核兵器の数を削減するとともに、国家安全保障戦略における核兵器の役割を縮小する。 最初は米国とロシア、最終的にすべての核保有国を対象とする。
  • 核兵器物質のすべての備蓄の安全を確保し、核テロを防止し、国際的な協力体制を築く。
  • 条約の義務に違反した国を罰する厳しい制裁と、より安全な、核に依存しない未来を実現する現実的な関与とを組合せることによって、新たな核保有国の出現を阻止する。

これらの実際的な措置を結び合わせることが、核兵器のない世界のビジョンである。核兵器の廃絶は、かつては実現不可能な理想論と考えられたが、今で は、米国の国家安全保障について思いを巡らしている多くの有力な識者によって超党派的に受け入れられている。共和党のジョージ・シュルツとヘンリー・キッ シンジャー(ともに元国務長官)、ならびに民主党のウィリアム・ペリー(元国防長官)とサム・ナン(元上院議員)は、2007 年1 月にウォール・ストリート・ジャーナル紙に連名で論文を寄稿して以来、世界の核兵器の廃絶とこの目標に向けた実際的な措置――オバマ大統領の計画が掲げる ような措置――を求めるキャンペーンの先頭に立っている。

ジェームス・ベーカー、コリン・パウエル、メルビン・レアード、フランク・カールッチ、ウォーレン・クリストファー、マデリーン・オルブライトな ど、存命中の元国家安全保障問題担当大統領補佐官、元国務長官および元国防長官の3分の2 は、シュルツ元国務長官ら4 人のビジョンに賛成の意を表明している。また、数十の組織や研究機関が、今や、このビジョンおよびこれらの措置の推進を図っている。このように、オバマ大 統領の計画は、米国の主要な安全保障専門家や元高官らの幅広いコンセンサスを反映しているのである。

 

wwwj-ejournals-nuclear2b米露両国の義務に焦点を合わせるオバマ大統領とメドベージェフ大統領 (© AP Images/RIA-Novosti)

前途に待ち受ける困難

しかし、紙上では論理的にみえても、オバマ戦略は非常に大きな政治的および実際的な障害を乗り越えなければならない。

最も目立つのは、核兵器推進派による反対である。一部の保守的な新聞や雑誌の論説は、オバマ政権のアプローチを弱腰で認識が甘いと非難している。こ うした議論は、大量の核兵器が持つ抑止力としての価値を前提とする冷戦時代の考え方を支持する、検証体制を信用しない、あるいは、軍備管理を世界の安全保 障に取り組む方法のひとつとすることを単に拒否する一部の保守的な評論家やシンクタンクによって支えられている。

しかし、ヒラリー・クリントン国務長官が言うところの、核兵器および前世紀の失敗した政策に「しがみついている」真の核タカ派は少数である。

おそらく、より重大な障害は、大統領が他の差し迫った危機への対応にも時間とエネルギーを傾注しなければならないことであろう。2 つの戦争、世界的不況、医療危機、エネルギー危機、政治システムの深い分裂、最近の米国の一部の政策に対する世界的な不人気など、米国の歴史において、新 任の大統領がこれほどまでに多岐にわたる問題を引き継いだ例はまれである。核政策は、オバマ大統領にとって重要で、個人的にも優先順位が高いものではある が、同大統領がこの問題に対する関心を持続できるかどうかは、他の問題への対応との競合にならざるを得ない。

オバマ大統領は、もうひとつの障害、すなわち、政界に広がっている冷やかで懐疑的な見方も認識している。同大統領は、「そのような運命論は、極めて 危険な敵である」と述べている。こうした運命論は、核兵器の数が少なくなった世界、あるいは核兵器のない世界では、安全保障の検証が不可能になると信じて いる人々の考えに見られるものである。また、核軍縮は望ましいが、達成不可能であり、無駄な努力を費やすに値しないと主張する人々の考えにも見られる。さ らに、核軍縮は望ましいし、達成可能であるが、現政権では無理であると考える人々もいる。

オバマ大統領はプラハ演説での中で、こうした批判をするすべての人に対し、次のように述べている。「核兵器のない世界の話を聞き、実現不可能と思え る目標を設定することに価値があるのかという疑問を持つ人もいます……しかし、そうした考えの行き着く先は分かっています……私たちが平和の追求を怠ると きには、永久に平和をつかむことはできません」

オバマが成功したかどうかは、自らが政権に課したいくつかの目標を達成できたかどうかによって、判断することが可能になるであろう。その目標は以下の通りである。

  • ロシアとの新しい核削減条約の上院による承認
  • 核兵器の役割を縮小させ、交渉を通じてより大幅な削減へ の道を切り開く新しい宣言的政策
  • 今年4 月に同大統領が主催する「核安全保障サミット」で、 すべての核兵器物質の安全管理体制を4 年以内に確立する ための共同計画に関する合意
  • 5 月に行われる「核不拡散条約」再検討会議で、条約の規 則の実施に向けて世界各国をまとめる
  • 1996 年核実験禁止条約の上院による承認

これらのことが実行されて初めて、プラハでの約束が米国の核政策の真の転換となる。


本稿に示された意見は、必ずしも米国政府の見解あるいは政策を反映するものではない


出典:eJournal “A World Free of Nuclear Weapons”

*上記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

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The Transformation of U.S. Nuclear Policy

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Joseph Cirincione, President, Ploughshares Fund
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