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スナップショットUSA – 米国人を米国人としているいくつかのこと 『 多元主義と民主主義』

ケネス・ジャンダ (Kenneth Janda)

ケネス・ジャンダはノースウェスタン大学(イリノイ州シカゴ)政治学教授。

ほかの民主主義国家と比べて、米国政府の構造はきわめ て分権的である。合衆国憲法の起草者たちは、権力が1 つの政治機構に集中することを極端に警戒し、政府の異なる 部門や地位に、権限を意識的に分散しようとした。米国型の 分権システムは、徹底した「多数決主義」の民主主義とは対 照的である。多数決主義では、政府は国民の多数派の望むも のに速やかに応えるような法律を制定し、政策を追求しなけ ればならない。

米国モデルの民主主義政 府、つまり多元的民主主義に は、多数決主義より優れてい る点がいくつかあるが、そこ には建国者たちが抱いた国の ビジョンが現れている。多元 的民主主義では、政府の権力 が分散していなければなら ず、権限が集中してはならな い。このモデルによると、民主 主義が存在するのは、政府の 権限が複数の権力中枢に分散 されている場合であり、その 権力中枢はさまざまなグルー プ――例えば、労働者vs経営 者、農民vs食料品店、石炭会社vs環境保護運動家――の利害 に対して公平に開かれていなければならない。多元的社会で はこのようなグループは互いに競争する。

多元主義の理論における権限の分散は、政府が、もしかす ると無謀かもしれない性急な行動を取るのを防いでくれる が、その一方、主要な権力中枢の意見が一致しなければどん な行動も起こせないということもある。米国の政府を特徴 づけているのは分権ではあるが、一部の制度的特色には権力 の集中化へと傾くものもあり、これによって政府が政策に関 して全体の一致がなくても行動を起こせるようになる。このエッセイでは、米国の政治システムのカギとなる特色が、政 治権力の分散と集中のバランスを取るのに、どのように役 立っているかを見ていく。

中央権力に対する不信感

英国王ジョージ3世の臣民だった最初の英国植民地13州 の人々は、自分たちの生活を国外から支配する強大な中央政 府を信用せず、1775年、英国支配に反旗を翻した。1776年の独 立宣言は、国王が「これら13州に対して絶対的専制の暴政」を ふるったとして非難している。植民地の住民は独立戦争を戦 いながら、「連合規約」(反乱を 起こした13州で同盟のような ものを創設した文書)の下に 「アメリカ合衆国」を形成し た。1781年、ついに独立を勝ち 取り、同年ようやく「連合規 約」が承認され、実施された。

この連合政府の弱点が明ら かになったのは戦後のこと だった。権力が分散し過ぎて いたのだ。連合政府には徴税 権がなかった。執行権を持つ リーダーもいなかった。通商 を管理統制できなかった。そ の上、連合規約を修正するに は全員一致の賛成が必要だった。1787年、各州代表が規約を 改正しようとフィラデルフィアに集まったが、結局、まった く新しい「アメリカ合衆国憲法」を書き上げた。だが、この憲 法は強大な権力を持つ中央政府を設置したわけではない。代 表たちはまだ、権力分散型でありつつも連合規約で認められ ていたやり方よりもっと中央集権的に調整できる政府を模 索していた。新しい行政機構は、権力の分散と集中をうまく 両立させた。その結果、200年以上たっても機能している持続 的な政府となったのである。

権力分散化の特色

米国の政治システムには、権力の分散化を促すたくさん の特色がある。中でも、憲法にも盛り込まれているとりわけ 重要な4つの特色は、(1)連邦主義、(2)権力の分離、(3)同等 の影響力を持つ2院制の議会、(4)選挙制度(2つの異なる制 度)である。

(1) 連邦主義

合衆国憲法の起草者たちは、連合型の政府を連邦型の政府 に替えた。連合規約では、「主権と自由と独立」を保持する州 の「永久同盟」を誓っていたが、合衆国憲法は主権について は何も触れていない。この憲法は「われわれ合衆国の国民は」 という文句で始まり、新し い政府は州ではなく個人を 代表することをほのめかし ている。連邦主義の概念で は、2つ以上の同等レベル の政府が、同じ国民と同じ 領土に対して権力と職権を 行使する。例えば、中央政府 (連邦政府)は外敵から国を 守るために防衛力を備える が、州政府は「警察権」を行 使して、市民の健康や道徳、 安全、福利を守る。連邦政 府は州の協力がなければ、これらの領域で行動を起こすこと ができない。連邦政府は、州のハイウェイ建設が全国的水準 に達するように資金を提供したり、州立学校が一定の手順に 従えば教育助成金を出したりしてもよい。警察権は州に分権 化されているので、連邦政府の権限は、ハイウェイ建設や学 校教育の向上、結婚や離婚の規制、犯罪者の処罰でも制限さ れる。ほかにもいろいろあるが、これらすべてが州の管轄下 に分権化されている。

(2) 権力の分離

合衆国憲法は、政治的権力を統治機構の3つの部門に分散 するシステムをつくり出した。「すべての立法権」を連邦議 会に与え、「行政権」を大統領に、「司法権」を連邦最高裁判所および議会により設置された下級裁判所に与えたのである。 その上、憲法はさらに権限を分散し、これら3部門が互いに チェックする方法を考え出した。一例を挙げると、議会には 立法権が与えられたが、大統領には拒否権が与えられた。し かも、大統領が拒否権を行使しても、議会で3分の2以上の 賛成が得られれば法案は成立する。もう一例挙げよう。条約 の交渉は大統領の権限だが、上院で3分の2以上の賛成がな ければその条約は発効されない。もう一例。議会が最高裁判 所の構成を決め、大統領が最高裁判事を指名するが、最高裁 判所は議会や大統領の決定が憲法に抵触すると判断すれば、 それを無効にすることができる。最後の例に関して注意すべ きは、議会や大統領の決定を無効にする最高裁判所の権限 は、憲法に明記されていたわけではないということだ。これ は、1803年の「マーベリー対マディソン」裁判における最高 裁判所の画期的判決のあ と、初めて慣例となった。

こうした権力の複雑な 分離が、米国における行 政権の分散化に寄与し ている。大統領は政府の 計画を提案できるが、議 会は通常、その計画を法 案化し成立させることを 求められる。その場合で も、その法律が提訴され たら、最高裁判所はこれ を無効とすることができ る。米国で永続的な法律を成立させるためには、複雑なプロ セスを経なければならない。立法は議院内閣制の方がやりや すい。世界の民主主義国家の間では、議院内閣制を採用して いる国がはるかに多い。そこでは議会の多数党または連立政 党が、内閣により提出された法案をだいたい通過させ、ほと んどの裁判所は法律を無効にする権限を制限されてきた。

(3) 2院制議会

米国の立法プロセスにおける権力の分散化は、2院制議会 によってさらに促進される。世界には2院制議会(しばしば 下院・上院と呼ばれる)の国は多いが、両院の権限がほぼ同等 という国はほとんどない。米国の連邦議会の下院は、人口の規模に基づいて各選挙区から選ばれた435人で構成される。 下院より少ない上院の議員数は100人で、年齢は30歳以上で なければならず(下院は25歳以上)、任期は6年(下院は2年) と上院の方が長い。上院議員も国民の投票で選ばれることに は変わりないが、人口に関係なく各州2人と定められ、時期 をずらして(2年ごとに3分の1)改選される。

合衆国憲法によると、上下両院の権限の違いはごくわずか しかない。歳入に関するあらゆる法案は下院だけが発議でき るが、条約や大統領による政治的任命を承認するのは上院に 限られている。こうした違いは、法案成立の権限が同等であ ることに比べれば、たいした問題ではない。法案は大統領が 署名する前に同一の形式 で各議院を通過しなけれ ばならない。その結果、 (ほとんどの国と同様に) 権限がどちらかの議院に 集中するということはな くなり、両院に同程度に 割り当てられる。

(4) 選挙制度

米国の選挙制度は1つ ではなく2つある。1つ は大統領を選ぶ選挙、も う1つは連邦議員を選ぶ 選挙である。この両方が権力の分散化に貢献している。まず 大統領選挙を考えてみよう。米国の大統領選挙は、いわゆる 一般投票の過半数を獲得した候補者が勝利するという「全国 民的」選挙ではなく、連邦制の選挙であり、「選挙人区」の選 挙人538人の過半数(270人)を獲得した候補者が大統領の座 に着く。(538という数字は、下院と上院の議席数にコロンビ ア特別区の持つ3票を加えたもの。)州の選挙人にはそれぞ れ1票が与えられており、各州には下院の議席数と同数の選 挙人がいる。最小規模の州(下院1人、上院2人)の選挙人票 は3票しかない。最大規模のカリフォルニア州には55票与え られる。大統領選挙で投票するということは、実際には、各 州の選挙人が投票を誓約している特定政党の候補者に1票 を投じるということになる。一般投票のあと、各州の選挙人 は州都に集まり、正式に大統領を選出する。(選挙人全員が一 堂に会することはない。)各州の一般投票で過半数を得た候補者が、その州の選挙人票をすべて獲得する。従って、大統 領候補の選挙運動は国民全体に向けてではなく、それぞれの 州に分散して展開される。

連邦議会の選挙制度も権力の分散を促す。大半の民主主義 国家では、比例投票を使って立法府の議員が選ばれる。有権 者は政党に投票し、その政党の得票率に応じて議席が配分さ れる。米国では多数決投票によって議員が選ばれる。複数の 候補者が1つの議席を争い、最も得票数の多かった候補者が その議席を獲得する。単独で選挙に勝ったのだから、下院議 員は出身州と選挙区の要望に応え、再選を目指そうとする。 そのため、地元の利益が国家の利益と衝突する場合、地元利 益を優先しようとす る。

権力集中化の特色

連邦主義、権力の分 離、2院制議会、選挙 制度、これらすべてが 米国の権力分散化に 貢献しており、米国は 多元的民主主義のモ デルの役割を果たし ている。しかし、政治 的権力の分割には、政 府がまったく行動を 起こせなくなったり、国民の大多数の利益より、組織化され た少数派の利益のために行動するリスクが伴う。前述したよ うに、憲法の起草者たちは、もともと権力の分散と抑制に心 を砕いた。やがて、当時では予期されなかったようなある種 の制度上の変更が行われ、それが権力の集中化を助けた。制 度上の変更で特に注目すべきは、(1)大統領の地位、(2)2大 政党制、(3)最高裁判所、である。

(1) 大統領

憲法起草者たちは第1条の立法府に2,200語以上費やして いるが、第2条の行政府にはわずか1,000語しか充てていな い。多くの起草者は大統領職を、主として、議会が提案可決 した法律を実行するのに必要な行政管理職と見なしていた。 しかし長い年月がたつうち、大統領は米国の政治体制の中心点となった。現在では、大統領は国の目標を定め、その目標 を達成するための法律を提案し、国の法令に財源を与えるた めの予算案を議会に提出し、もちろん世界情勢においては 国益を代弁する。大統領は国内的・国際的危機に対応しなが ら、通常は議会の協力を得てその職権を拡大してきた。その 結果、今では大統領職は最も世論に気を配る職務となってい る。その意味で大統領は、民主主義国家の多数決モデルに足 並みをそろえて、さらに重要な役割を果たしている。

(2) 2大政党制

政党は1787年まで存在しなかった。選挙で最多票を得た候 補者を大統領に、次点者を副大統領に、議会が任命していた のである。1796年の選挙ま でには議会に2つの政党が 誕生しており、この2政党 は互いに大統領候補を出し て対抗した。勝者ジョン・ア ダムス(連邦党)は、対抗馬 だったトマス・ジェファソ ン(民主共和党)を副大統領 として受け入れなければな らなかった。1804年の憲法 修正条項は、政党の出現を 認めて、選挙人が正副大統 領を別々に投票することを 定め、その結果として、政党 が正副大統領両候補を公認 候補として立てるようになった。しかも議会両院で政党が対 立するようになったため、両院間の調整を促した。大統領を 出した政党は、大統領と議会との調整を図った。米国の歴史 上、ほとんど2大政党が政治の優位を占めてきたことも、権 力集中化の一因となっている。米国の政治は民主党と共和党 を中心に展開し、どちらかが与党になったり野党になったり する。少数党はほとんど力を発揮できないので、2大政党シ ステムは権力の集中化に貢献している。

(3) 最高裁判所

憲法起草者たちは連邦最高裁判所の規定を設けたものの、それが新しい政府でどういう役割を果たすか、明確なビジョ ンがあったわけではない。司法府について述べている第3条 は400語にも満たず、最高裁判所の権限についてはあまり多 く触れられていない。1803年、最高裁判所は全員一致で、司 法審査権(議会で可決された法律が合衆国憲法に合致してい るかどうかを審査する権限)を強く主張した。この決定によ り、政治システムにおける最高裁判所の地位は向上し、さら には、賛否両論のある政府の行動については、その最終決定 権を最高裁判所に与える結果となった。最高裁判所は、権力 の分割されたシステムにおいて最終決定を下す判定者とな ることによって、権力の集中化を助けた。

結び

米国のシステムは、統治 機関の権力があまりにも分 散化されているため、最高 水準にある多数決型の民主 主義には及ばないとも言わ れる。しかし権力の分散化 があればこそ、多元的民主 主義の基準を見事に満たし ているのだ。多元的民主主 義は権力中枢の多極性を前 提とするのだから。米国の 政治システムは、民主主義的 プロセスの中で意見の対立 するグループに公平に開か れており、時間をかけて、徹底した多数決原理に基づくシス テムより効果的に、さまざまなグループの利害に配慮する政 策成果を生み出すであろう。

※この記事の意見は、必ずしも米国政府の考えや方針を反映しているものではありません。

*上記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

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