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ボランティア精神 – 「グランドファーザー」の出番

ジャンヌ・ホールデン

 

ナヴォンテがバージニア州アレクサンドリアの古びたテラスハウスに駆け込む。弟のデショーンがあとを追う。さらに何人かのアフリカ系米国人の少年が続く。少年たちは、建物の中のバーナード・ジョーンズほか数人のアフリカ系米国人男性に温かく迎えられる。今日はその月の第1土曜日。ジョーンズが「グランドファーザーの会」の会合を主催する日だ。今日のテーマは「キャリアプラニング」である。

 

バージニア州アレクサンドリアの「グランドファーザーの会」のリーダーを務めるバーナード・ジョーンズ。指導している子どものひとりに、興味を引きそうなウェブサイトを紹介する。(©Louise Krafft)

バージニア州アレクサンドリアの「グランドファーザーの会」のリーダーを務めるバーナード・ジョーンズ。指導している子どものひとりに、興味を引きそうなウェブサイトを紹介する。(©Louise Krafft)

「北部バージニア都市同盟」の後援を受ける「グランドファーザーの会」の目的は、父親のいない9歳から12歳のアフリカ系米国人少年の成長を手助けすることである。1910年設立の「北部バージニア都市同盟」は、アフリカ系米国人の公民権の確保と経済的な自立を支援している。

 

「グランドファーザーの会」に参加する少年たちは、通常50歳以上のアフリカ系米国人男性とペアになり、信頼に基づいた一対一の人間関係を築いていく。グランドファーザーたちは、それぞれの経験、知識、勘、能力を提供して、アフリカ系米国人の少年たちの前向きな人格形成に役立てる。

 

このプログラムが始まった1998年以来、グランドファーザーたちは北部バージニアで150人の少年たちのメンター(助言役)を務めてきた。米国の他の都市部でも、同様のプログラムが少年たちを支援している。2010年の米国国勢調査によると、両親とともに暮らす子どもの比率は、非ヒスパニック系白人の場合78%なのに対し、アフリカ系米国人ではわずか35%である。連邦調査では、父親のいない子どもは、両親がそろっている家庭の子どもと比べて、学校を中退する可能性が2倍も高く、犯罪やアルコール乱用に関与するリスクも高いという結果が出ている。「グランドファーザーの会」は、父親不在で育つ少年たちがこうした状況に陥らないよう支援の手を差し伸べることを目的としている。

 

「アフリカ系米国人の少年たちが、家庭以外の場で、専門的職業を持つアフリカ系米国人と会い、彼らが責任ある大人、良き市民であることを理解するのは良いことです」とナヴォンテとデショーンの母親、ベロニカ・ディーンは言う。「息子たちは、成人男性との交流がほとんどありません。たまに接触があるとしても、相手はだいたいアフリカ系ではないのです」

 

父親なしに育つ少年に、自分が身につけた知恵を授ける歯科医のマルコム・マレー(©Louise Krafft)

父親なしに育つ少年に、自分が身につけた知恵を授ける歯科医のマルコム・マレー(©Louise Krafft)

息子たちが抱くアフリカ系米国人男性のイメージはテレビ番組で汚されている、とベロニカは指摘する。テレビが描くアフリカ系米国人男性は、ホームレスや、違法ドラッグや犯罪に手を染める者が多いというのだ。

 

「グランドファーザーの会」は、バージニア州アレクサンドリアのジェームズ・チャットマンと妻のラバーンが1998年に立ち上げた組織である。ジェームズ(故人)は、自身が父親不在の家庭で育った経験から、父親のいない少年たちのニーズをよく理解していた。ただ、ジェームズは本来なら父親から教わるはずのことをすべて、叔父の助けで身につけることができた。魚の釣り方、ひもの結び方。そして、どうしたら紳士になれるか。みんな、叔父が力を貸してくれたのだ。ビジネスマンとして成功したジェームズは、父親のいない他の少年たちにも、父親に代わる存在から力を得て欲しかったのだ。

 

52歳になるトニー・マーティンは、アレクサンドリアでこれまで2年間メンター役を務めている。彼が受け持つのは、12歳のロナルド・クラークだ。「ロナルドはとてもおもしろい子です。私はロナルドといろいろな話をします。スポーツについて、読書について。公民権運動についても教えました」とトニー。

 

トニーによると、ロナルドは熱心に話を聞き、アドバイスに従う。ロナルドにとっても、「グランドファーザーの会」はとてもいいところなのだ。ロナルドの母親も、息子はこの会が大変気に入っていると言う。トニーは地区のレクリエーションセンターにたびたびロナルドを訪ね、ロナルドのバスケットボールの試合にもよく顔を出す。

 

「ロナルドには、真面目に学問をするよう教えたいのです。余計な先入観を持たずに学び、謙虚な人間に育って欲しいと思います」とトニー。「質問があれば何でも遠慮なく聞いて欲しい。私に何でも話せるようになってもらいたいのです」

 

メンターの存在が、父親のいない子どもたちが自分の人生に対して怒りをぶつけることの歯止めになる場合もある。「グランドファーザーの会」初期メンバーのひとり、メルビン・ミラーは、学校の成績が悪い子は往々にして、家に父親がいないこと、余分なことをする余裕がないこと、母親が滅多に家にいないことに憤りを感じているということに気づいた。「グランドファーザーの会」は、学校をさぼり始めていたひとりの少年とメルビンでペアを組ませた。少年の母親は看護師で、長時間働いていた。

 

「そこで私は、夕方になると時々少年の家を訪ね、話をするようにしたのです。私と話をするときは、それほど憤りを感じているようには見えませんでした」とメルビンは言う。その後、少年は学校での成績も上がり、名門州立大学に進学したとメルビンは誇らしげに語る。

 

バージニア州アレクサンドリアの「グランドファーザーズ」たちと、彼らの指導・助言を受ける少年たちの月例会をリードするバーナード・ジョーンズ(立ち上がっている人物)(©Louise Krafft)

バージニア州アレクサンドリアの「グランドファーザーズ」たちと、彼らの指導・助言を受ける少年たちの月例会をリードするバーナード・ジョーンズ(立ち上がっている人物)(©Louise Krafft)

「グランドファーザーの会」のプログラムは、少年たちだけでなく、そのメンターたちにとっても人生を変えるような経験をもたらすと、ラバーン・チャットマンは言う。「メンターはその活動を通じて自分自身の孫たちの成長にも役立つスキルを学んでいます。また他人の人生に良い影響を与えようというわけですから、自らもより健康になります。さらに仲間との間に友情も芽生えます」

 

メンター役のグランドファーザーたちは、少なくとも1カ月に4回、少年たちと接触することになっている。このうち少なくとも2回は直接会う必要がある。「個人的な接触が重要なのです」と、現役メンターのひとり、クライド・バシンゲールは言う。「人と直接向き合うことで、少年たちは人との接し方を学ぶのです」

 

バシンゲールは、彼が受け持つ若い友人とボーリングに出かけたり、ピザ店で昼食を食べたり、国立自然史博物館を訪ねたりしたと言う。

 

「グランドファーザーの会」は毎月第1土曜日、ある特定の活動のために集まる。この活動には、メンターと少年のチームのほとんど全員が参加する。この日はキャリアについて考える催しが行われ、専門的な職業に従事する6人のアフリカ系米国人男性がパネリストになって、それぞれがキャリアを築くためにどのような準備をしたかについて覚えていること、体験したことを語った。どのパネリストも、学業の大切さを強く訴えた。

 

パネリストのひとりである歯科医は、いつもうまくいく人なんていない、いちばん大事なのは努力し続けることだと述べた。別のパネリストは少年たちにこう話した。「周りを見てごらん。メンターの人たちや私たちパネリストが今日ここにいるのは、君たちのことを気にかけて君たちの成功を願っているアフリカ系米国人のプロフェッショナルがいるということを、君たちに知ってもらいたいからだ」

 

ジャンヌ・ホールデンは、北バージニア在住のフリーランスライターで、『Principles of Entrepreneurship』(「起業家精神の原則」)の著者


出典:eJournal The Spirit of Volunteerism”
*上記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

 

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It Takes a Grandfather
by Jeanne Holden
Volunteer “grandfathers” mentor fatherless boys.