国務省出版物
米国の歴史と民主主義の基本文書大統領演説
14 カ条の平和原則(1918 年)
ウッドロー・ウィルソン
今回の(第1 次世界)大戦で、合衆国は不本意ながら交戦国だった。ウィルソン政権は中立を維持しようと最大限の努力を重ねた。しかしながら、最終的には連合諸国からの懇願と、ドイツのUボート作戦の再開に対応して、1917年4月、合衆国は3国同盟諸国に対して宣戦を布告した。
欧州の各戦闘国は、数年にわたって戦争準備を進めてきており、複雑な秘密協定の網がさまざまな国々を結びあわせていた。連合国側も同盟国側も、お互いに敵の帝国を支配しようという野心を抱いていた。しかしながら合衆国は、これらのどの協定にも参加せず、ウッドロー・ウィルソン大統領は、恒久的な平和の構築に双方が全面的に参加できるような戦争終結の根拠を必死に模索していた。米国の参戦の前にも、その後にも、ウィルソンは交戦国に対して、それぞれの戦争の目的を述べるよう呼びかけた。しかし、目的の多くは領土的な野心に関するものだったため、双方ともに呼びかけを拒絶してしまった。
ついにしびれを切らしたウィルソンは、1918年1月8日、連邦議会の場で、彼の考える公正かつ永続的な平和の基本前提となるものを公表した。これが「14カ条の平和原則」と呼ばれるようになった計画で、海洋の自由と開かれた盟約、民族自決の原則を実行するさまざまな地理的取り決め、そして何よりも、平和を執行する国際連盟の設立などの基本的原則から成っていた。
この14カ条の原則は、いくつかの理由で重要である。第1に、これらは、「進歩主義」として知られる米国の国内改革の原則の多くを、外交政策に移しかえたものだった。自由貿易、開かれた協定、民主主義、そして民族自決といった考え方は、改革派が20年間にわたって支持してきた内政計画の変形にすぎなかった。第2に、14カ条の原則は、交戦国による戦争目的の声明としては唯一のものだった。従って、これらの原則はドイツ降伏の根拠となり、そして講和条約を判定するための唯一の基準となった。
最も重要な点は、多くの諸国が外交政策の指針は自己の利益だけだと考えていたのに対し、14カ条の原則でウィルソンは、民主社会の外交政策の基盤は道徳性と倫理でなければならないと主張したことである。それ以降の米国政府が、必ずしもそうした信念を共有していたわけではないが、国内政策だけでなく対外政策においても、道徳性が重要な要素だと信ずるウィルソンに、多くの米大統領が賛成してきた。
連邦議会の皆さん・・・
われわれの希望と目標は、和平の過程が開始されるときには、それが完全に開かれたものとなり、それから後、いかなる種類の秘密の合意も含まず許可しないものになることである。征服と強大化の日々は過去のものである。同様に、特定の政府の利益のために、そしておそらく思いがけない時に世界の平和を乱すために締結される秘密の盟約の日々もまた、過去のものである。この喜ばしい事実は、死滅し過ぎ去った時代に拘泥することのない新しい考えを持つ、あらゆる公人にとって今では明白であり、それは、世界の正義と平和に合致する目的を持つあらゆる国家が、今、あるいはいかなる時においても、その目指す目標を明言することを可能にしているのである。
われわれがこの戦争に入ったのは、権利の侵害が発生したためである。それは、われわれを深く傷つけた。そして侵害が是正され、その再発に対して世界の安全が最終的に確保されない限り、わが国民の生活が不可能になったのである。従って、この戦争でわれわれが求めるものは、われわれ自身にとって特別なものではない。それは、この世界を住みやすく安全なものにすることである。そして特に、わが国のように、自分の生活を営み、自分の制度を決定し、世界の諸国民から力と利己的な攻撃ではなく、正義と公正な扱いを保証されることを望むすべての平和を愛する国民にとって、世界を安全なものにすることである。この件に関しては、世界中のすべての人々が事実上の伴侶である。そしてわれわれ自身に関する限り、他者に対して正義を行われなければ、われわれに対して正義が行われることもない、ということが非常に明確に見えている。従って、世界平和のための計画は、われわれの計画である。そしてその計画、われわれが見るところ唯一の可能な計画は、以下の通りである。
Ⅰ 開かれた形で到達した開かれた平和の盟約。その締結後は、いかなる種類の秘密の国際的合意もあってはならず、外交は常に率直に国民の目の届くところで進められるものとする。
Ⅱ 平時も戦時も同様だが、領海外の海洋上の航行の絶対的な自由。ただし、国際的盟約の執行のため の国際行動を理由として、海洋が全面的または部分的に閉鎖される場合は例外とする。
Ⅲ 和平に同意し、その維持に参加するすべての諸国間における、すべての経済障壁の可能な限りの除 去と貿易条件の平等性の確立。
Ⅳ 国家の軍備を、国内の安全を保障するに足る最低限の段階まで縮小することで、適切な保証を相互に交換。
Ⅴ 植民地に関するすべての請求の、自由で柔軟、かつ絶対的に公平な調整。その際には、主権に関するそうしたすべての問題の決着に当たっては、当事者である住民の利害が、法的権利の決定を待つ政府の正当な請求と同等の重みを持たされなければならない、という原則に基づくものとする。
Ⅵ すべてのロシア領土からの撤退と、ロシアに影響を及ぼすあらゆる問題の解決。それは、ロシアに 対して自らの政治的発展と国家政策を独自に決めるための、制約と障害のない機会を得させるために、世 界各国の最良かつ最も自由な協力を確保し、またロシアが自ら選んだ制度の下で、自由な諸国の社会に真 摯に迎えられることを保証するだろう。また歓迎にとどまらず、ロシアが必要とし希望するあらゆる援助 の提供も保証するだろう。今後何カ月かの間に、ロシアに対して姉妹諸国が支える待遇は、それら諸国の善意と、彼ら自身の利益と切り離してロシアが必要としているものへの理解と、彼らの知的で、しかも利 己主義を排した同情心の試金石となるだろう。
Ⅶ ベルギーが他の自由諸国と同様に享受している主権を制限しようとする試みがあってはならない。 ベルギーから撤退し、同国を復興させなければならない。このことについては、全世界が同意してくれる はずである。各国が相互の関係を管理するために自ら設定し決定した法律に対する信頼を回復する上で、 これほど貢献する措置はないだろう。この治癒的行為がなければ、国際法全体の構造と正当性は永久に損なわれる。
Ⅷ フランスの全領土が解放され、侵略された部分は回復されるべきである。また、1871 年にアルザ ス・ロレーヌ地方に関してプロシアがフランスに対して行った不法行為は、50 年近くも世界の平和を乱し てきたのである。全員の利益のためにもう一度平和が確保されるために、この不正行為は正されるべきで ある。
Ⅸ イタリア国境の再調整は、明確に認識できる民族の境界線に沿って行われるべきである。
X われわれは、オーストリア・ハンガリー国民の諸国間における地位が保護され確保されることを望 む。彼らには、自治的発展の最も自由な機会が与えられるべきである。
XI ルーマニア、セルビア、モンテネグロからの撤退が行われるべきである。占領された領土が回復さ れ、セルビアは海への自由かつ安全な交通路を与えられ、いくつかのバルカン諸国間の相互の関係が、忠 誠心と民族性という歴史的に確立された方針に沿って、友好的な協議により決定され、またいくつかのバ ルカン諸国の政治的、経済的な独立と領土保全に関する国際的な保証が結ばれるべきである。
XII 現在のオスマン帝国のトルコ人居住区域は確実な主権を保証されるべきだが、いまトルコ人の支配 下にある他の諸民族は、確実な生命の安全と自立的発展のための絶対的に邪魔されることのない機会を保 証されるべきである。そしてダーダネルス海峡は、国際的保証の下で、すべての諸国の船舶と通商に自由 な通路として恒久的に開かれるべきである。
XIII 独立したポーランド国家が樹立されるべきである。そこには議論の余地なくポーランド人である 人々の居住する領土が含まれ、彼らは海への自由で安全な交通路を保証され、政治的、経済的な独立と領 土保全が国際的盟約によって保証されるべきである。
XIV 大国にも小国にも等しく、政治的独立と領土保全の相互保証を与えることを目的とする具体的な盟 約の下に、諸国の全般的な連携が結成されなければならない。
以上に述べたような、間違いの根本的是正と正義の主張に関しては、われわれ自身も、帝国主義者に対 抗して団結するすべての政府と国民の親密な仲間であると自認している。われわれの利害をめぐって対立したり、目的をめぐって意見が割れたりすることがあってはならない。われわれは最後まで団結する。
われわれは、こうした協定と盟約のために戦い、それが達成されるまで戦いを続ける意志がある。ひと えにその理由は、正義が勝利する権利を望み、公正かつ安定した平和を欲することにある。そのような平 和は、戦争の主要な挑発要因を除去することによってのみ達成できるが、この計画は、そうした要因を除 去するものではない。われわれは、ドイツの偉大さを何も嫉妬してはいないし、この計画にはドイツの偉 大さを損なう要素は全くない。われわれは、ドイツの実績や、あるいは羨望に値する輝かしい経歴をドイ ツに与えた傑出した学問や平和的事業を、何もねたんではいるわけではない。われわれは、ドイツを傷つ けたり、ドイツの正当な影響や力を、いかなる形でも阻止したりすることを望んではいない。ドイツが正 義と法と公正な取引の盟約によって、われわれと世界平和を愛する諸国家と連携する意志があるなら、わ れわれは兵器によってにせよ敵対的協定によってにせよ、ドイツと戦うことは望まない。われわれが望む のは、ドイツが支配者の地位ではなく、今われわれが住む新しい世界の諸国民の間の平等な場所を受け入 れることである。
そしてまた、われわれは、ドイツの諸制度のいかなる変更ないしは修正をも提案するつもりはない。だ が、われわれが率直に言っておかなければならないことがある。われわれがドイツとの間に何らかの知的な関係を持つための前提として必要なことがある、ということである。それはドイツの代弁者がわれわれに向かって発言する時、それは誰のために発言しているのか、ドイツ議会の過半数のためなのか、あるいは軍事政党と帝国的支配を信条とする人々のためなのかを理解する必要がある、ということである。
これでわれわれは、これ以上の疑いも質問の余地もないほど、具体的な言葉で述べ終えた。私が概要を述べたこの計画全体には、明確な原則が貫いている。それは、すべての国民と民族に対する正義であり、そして強い弱いにかかわらず、互いに自由と安全の平等な条件の下に生きる権利である。この原則が土台となっていない限り、国際正義という建造物は、どの部分もしっかり立つことはできない。合衆国の国民は、これ以外の原則に従って行動することはできない。そして、この原則を守るために、自分の生命、栄誉、持っているものすべてを捧げる準備ができている。このことの道徳的な頂点、人類の自由のための最終的な絶頂である、その戦争が訪れたのである。合衆国国民は、自分の力、自分の最も崇高な目的、そして自分自身の品位と献身を試してみる準備ができている。
出典:The Avalon Project at Yale Law School
*上記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。
Fourteen Points(1918)
Woodrow Wilson
It will be our wish and purpose that the processes of peace, when they are begun, shall be absolutely open and those they shall involve and permit henceforth no secret understandings of any kind. The day of conquest and aggrandizement is gone by; so is also the day of secret covenants entered into in the interest of particular governments and likely at some unlooked-for moment to upset the peace of the world. It is this happy fact, now clear to the view of every public man whose thoughts do not still linger in an age that is dead and gone, which makes it possible for every nation whose purposes are consistent with justice and the peace of the world to avow nor or at any other time the objects it has in view.
We entered this war because violations of right had occurred which touched us to the quick and made the life of our own people impossible unless they were corrected and the world secure once for all against their recurrence. What we demand in this war, therefore, is nothing peculiar to ourselves. It is that the world be made fit and safe to live in; and particularly that it be made safe for every peace-loving nation which, like our own, wishes to live its own life, determine its own institutions, be assured of justice and fair dealing by the other peoples of the world as against force and selfish aggression. All the peoples of the world are in effect partners in this interest, and for our own part we see very clearly that unless justice is done to others it will not be done to us. The program of the world’s peace, therefore, is our program; and that program, the only possible program, as we see it, is this:
I. Open covenants of peace, openly arrived at, after which there shall be no private international understandings of any kind but diplomacy shall proceed always frankly and in the public view.
II. Absolute freedom of navigation upon the seas, outside territorial waters, alike in peace and in war, except as the seas may be closed in whole or in part by international action for the enforcement of international covenants.
III. The removal, so far as possible, of all economic barriers and the establishment of an equality of trade conditions among all the nations consenting to the peace and associating themselves for its maintenance.
IV. Adequate guarantees given and taken that national armaments will be reduced to the lowest point consistent with domestic safety.
V. A free, open-minded, and absolutely impartial adjustment of all colonial claims, based upon a strict observance of the principle that in determining all such questions of sovereignty the interests of the populations concerned must have equal weight with the equitable claims of the government whose title is to be determined.
VI. The evacuation of all Russian territory and such a settlement of all questions affecting Russia as will secure the best and freest cooperation of the other nations of the world in obtaining for her an unhampered and unembarrassed opportunity for the independent determination of her own political development and national policy and assure her of a sincere welcome into the society of free nations under institutions of her own choosing; and, more than a welcome, assistance also of every kind that she may need and may herself desire. The treatment accorded Russia by her sister nations in the months to come will be the acid test of their good will, of their comprehension of her needs as distinguished from their own interests, and of their intelligent and unselfish sympathy.
VII. Belgium, the whole world will agree, must be evacuated and restored, without any attempt to limit the sovereignty which she enjoys in common with all other free nations. No other single act will serve as this will serve to restore confidence among the nations in the laws which they have themselves set and determined for the government of their relations with one another. Without this healing act the whole structure and validity of international law is forever impaired.
VIII. All French territory should be freed and the invaded portions restored, and the wrong done to France by Prussia in 1871 in the matter of Alsace-Lorraine, which has unsettled the peace of the world for nearly fifty years, should be righted, in order that peace may once more be made secure in the interest of all.
IX. A readjustment of the frontiers of Italy should be effected along clearly recognizable lines of nationality.
X. The peoples of Austria-Hungary, whose place among the nations we wish to see safeguarded and assured, should be accorded the freest opportunity to autonomous development.
XI. Rumania, Serbia, and Montenegro should be evacuated; occupied territories restored; Serbia accorded free and secure access to the sea; and the relations of the several Balkan states to one another determined by friendly counsel along historically established lines of allegiance and nationality; and international guarantees of the political and economic independence and territorial integrity of the several Balkan states should be entered into.
XII. The Turkish portion of the present Ottoman Empire should be assured a secure sovereignty, but the other nationalities which are now under Turkish rule should be assured an undoubted security of life and an absolutely unmolested opportunity of autonomous development, and the Dardanelles should be permanently opened as a free passage to the ships and commerce of all nations under international guarantees.
XIII. An independent Polish state should be erected which should include the territories inhabited by indisputably Polish populations, which should be assured a free and secure access to the sea, and whose political and economic independence and territorial integrity should be guaranteed by international covenant.
XIV. A general association of nations must be formed under specific covenants for the purpose of affording mutual guarantees of political independence and territorial integrity to great and small states alike.
In regard to these essential rectifications of wrong and assertions of right we feel ourselves to be intimate partners of all the governments and peoples associated together against the Imperialists. We cannot be separated in interest or divided in purpose. We stand together until the end.
For such arrangements and covenants we are willing to fight and to continue to fight until they are achieved; but only because we wish the right to prevail and desire a just and stable peace such as can be secured only by removing the chief provocations to war, which this program does remove. We have no jealousy of German greatness, and there is nothing in this program that impairs it. We grudge her no achievement or distinction of learning or of pacific enterprise such as have made her record very bright and very enviable. We do not wish to injure her or to block in any way her legitimate influence or power. We do not wish to fight her either with arms or with hostile arrangements of trade if she is willing to associate herself with us and the other peace- loving nations of the world in covenants of justice and law and fair dealing. We wish her only to accept a place of equality among the peoples of the world, -- the new world in which we now live, -- instead of a place of mastery.
Transcription courtesy of The Avalon Project at Yale Law School