国務省出版物
ボランティア精神 – 米国のボランティア消防士
リック・J・マークレー
ウィスコンシン州ラファージ。時刻は午前2時。高い音がして、それに続くけたたましい警報音で深い眠りから揺すり起こされる。すぐに、ベッドの脇に置いた無線機からうわずった声が流れてくる。「消防隊出動要請、消防隊出動要請」。無報酬で働くボランティア消防士が要請に応える。
これはラファージでの出来事だが、これによく似た光景は、全米各地の無数のコミュニティで毎晩のように起こっている。というのも、米国では、要員の全部または一部がボランティアという消防組織が、全体の85%を超えているからである。こうしたボランティア消防士の総数は100万人近くに達するが、彼らの本業は実にさまざまであり、それぞれが家族との時間や睡眠さえも犠牲にして、緊急事態に対応している。事故で車や建物に閉じ込められた人の救出、有害物質の拡散防止、消火など、対応する緊急事態は広範に及ぶ。こうした男女のボランティア消防士の存在は、独立以前の時期にさかのぼる米国の伝統の一部である。
ボランティアによる消防活動のルーツ
ベンジャミン・フランクリンは、発明家・著述家・外交官としてよく知られている。しかし、アメリカの13の植民地が独立を宣言し、アメリカ合衆国を誕生させる40年も前に、フランクリンが最初の自警消防隊を組織していたことはそれほど知られていない。旅行でボストンを訪れたフランクリンは、彼が故郷と呼んでいたフィラデルフィアと比べて、ボストンのほうがはるかに火災への備えができていることに気付いた。そこで、フィラデルフィアに戻ったフランクリンは1736年、「ユニオン消防隊」を創設した。ボランティアで組織する消防隊という着想は評判を呼び、同じような組織が他の植民地でも結成されていった。
初期の米国のボランティア消防士には、経済的に成功した、公共心の強い人たちが多かった。彼らは、消防機材をそれぞれ自前で用意しなければならなかったため、個人的に裕福であることが重要なポイントになった。
現在の状況は当時と比べると大きく変わっている。ボストンやフィラデルフィアのような大都市には、常勤の職業消防士が詰める消防署がある。しかし主要都市は別として、たいていの都市郊外や地方のコミュニティを守っているのは、今もボランティア消防士である。
米国の伝統としてのコミュニティ消防活動
ラファージはウィスコンシン州南西部に位置する小さな町である。消防隊長のフィリップ・スティトルバーグが、30人のボランティア消防隊員を統括している。隊員の本業は、農家、マネージャー、工場労働者、自営業者などさまざまである。消防隊には消防署がひとつあり、350平方キロにおよぶ地域に散在するする2,750人の住民を守っている。彼らが対応する緊急事態は年間約50件。その大半を占めるのが、車両の衝突事故と火災である。
スティトルバーグによると、ボランティア消防士の数、緊急通報の数は、38年前に彼が入隊した頃とあまり変わっていない。
もうひとつ当時から変わっていないのは、ボランティア消防士たちの献身的な取り組みである。男性も女性も市民としての責任感から、午前2時の緊急通報にも、ベッドから這い出て応じているのである。
「隊員の多くは、自分のコミュニティに何かお返しをしたいという気持ちを持っています」とスティトルバーグは言う。「コミュニティの世話になり、コミュニティに育ててもらった。ですからそのお返しをするのです。そして、たいへんな仕事をしているチームの一員であると思えば、満足感も大きくなります。誰にでもできる仕事ではありませんから」
スティトルバーグは法科大学院に通っていた頃、ボランティアとして初めて消防活動に参加した。仕事はパートタイムの運転手だった。消防士の「血筋」を引くと考える彼は、法科大学院修了後の1972年、ラファージの消防隊に加わった。入隊から5年で隊長に任命された。
弁護士としてのスティトルバーグは、刑事事件を担当する地方検事補として働いた。どちらの仕事も、不完全な情報しかなかったり、状況が刻々と変わったりする中で、迅速な判断を迫られる場合が多いという。判断を誤れば、悲惨な結末を招きかねない。そこで法廷弁護士も消防隊長も、予備プランを用意しておく必要がある。スティトルバーグは、法廷での経験が自分を消防隊長としても成長させたし、その反対もしかりだと言う。彼は最近、地方検察局を引退したが、ボランティア消防隊長は続けている。
スティトルバーグは、自身が隊長を務める消防隊でも、全国各地の他のボランティア消防隊においても、心強い変化が起きていることに気付くと言う。「全米ボランティア消防協議会」の役員も務めた経験を持つスティトルバーグの見方によれば、現在のボランティア消防隊員は、厳しい訓練を受けているため、以前よりかなり高いレベルの専門技能や知識を身につけているという。創設期の自警消防隊員とは違って、今日のボランティア消防隊員は、自費で消防機材を買う必要はない。
ボランティア消防隊の運営資金
ボランティア消防隊を設置しているコミュニティのほとんどは、耐火ズボンやコート、ヘルメット、空気呼吸器、マスク、ブーツなどの防護用具の購入や維持に税金の一部を充てている。消火や人命救助のための道具にかかる費用も、やはり公金でまかなわれている。しかし地方自治体から提供される資金は、消防隊のニーズを満たすのに十分な額でない場合も多い。そうした場合、ボランティア消防隊員たちはコミュニティでイベントを主催し、追加資金を募る。例えばラッフル(慈善団体などが資金集めのために行うくじ)やカレンダー販売などの活動を通じて、ラファージのボランティア消防隊は、年間予算の1割に相当する1万ドルもの資金を集め、消火や人命救助のための機材を買い足している。
連邦政府も、毎年の補助金交付を通じてボランティア消防隊の支援に一役買っている。連邦補助金を申請する際には、消防隊は、例えば消防車のような機材が必要であることを証明したうえで、購入資金の一部を拠出することを誓約しなくてはならない。スティトルバーグも、そうした補助金を使ってラファージに消防車を買ったことがあるという。しかし補助金があっても、多くのボランティア消防隊は手持ちの車両を長く使っている。
「私が1972年に入隊したとき、消防車は2台ありました。そのうちの1台は、主力車として使っていた1957年インターナショナル社製で、もう1台は1939年製ダッジの消防車でした」とスティトルバーグは回想する。隊長になってまもなく1972年製の消防車を買った。「今、第2消防車として使っているのが、その1972年製インターナショナルです。今や、私が入隊したときにあった1939年製の消防車よりも年代物になりました」。その1939年製ダッジがどこに行ったかというと、全面的に改修され、パレードの際の展示物として使われている。
これを知ったら、ボランティア消防士にして外交官だったベンジャミン・フランクリンは、さぞ誇りに思うことだろう。
リック・マークレーは、発展途上国向けに消防・救急サービス関連の中古備品と研修を提供する「国際火災救援団」(International Fire Relief Mission)で、ボランティアのメディア担当マネージャーとして活動している。自身もボランティア消防士で、雑誌『Fire Chief』の元編集者である。
米国では、要員の全部または一部がボランティアという消防組織が、全体の85%を超えている。こうしたボランティア消防士の総数は100万人近くに達するが、彼らの本業は実にさまざまである。 |
リック・マークレーは、発展途上国向けに消防・救急サービス関連の中古備品と研修を提供する「国際火災救援団」(International Fire Relief Mission)で、ボランティアのメディア担当マネージャーとして活動している。自身もボランティア消防士で、雑誌『Fire Chief』の元編集者である。
出典:eJournal The Spirit of Volunteerism”
*上記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。
The Spirit of Volunteerism
America’s Volunteer Firefighters
by Rick J. Markley
Volunteer firefighting began in the American colonies and the tradition remains strong now.