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核兵器のない世界 – 既存の条約を越えて

脅威と約束
既存の条約を越えて

レベッカ・ジョンソン

2010 年の核不拡散条約再検討会議では、核軍 縮の次のステップについて合意を得るだけでなく、 核兵器廃絶のための条約の成立に向けて基礎固め を始めるべきである。レベッカ・ジョンソンは英 国アクロニム研究所の所長である。

現在の核兵器不拡散体制は維持、強化されるべ きであるが、その一方で、現在の核不拡散条約 (NPT)は、核のない世界を作り出すために必要 な義務と権限がうまく調和していない。

核のない世界という目標を達成するには、普遍 的な核兵器廃絶条約が必要である。そうした条約 の合意および批准がすぐに実現することはないで あろう。従って、2010 年5 月にニューヨークで 開催予定のNPT 再検討会議では、核の廃絶を今 後の核不拡散の取り組みの目標として設定すべき である。また、再検討会議では、安全保障ドクト リンにおける核兵器の役割の縮小、および既存の 核兵器の削減について、次にどのような暫定措置 を取るべきか決定するとともに、核のない世界を つくるための基盤を固めるべきである。

米国は先頭に立てる

バラク・オバマ大統領が2009 年4 月のプラハ 演説で、「米国が核兵器のない世界の平和と安全 を追求する決意であることを、信念を持って」言 明したとき、世界の大半は安堵と興奮でこれに応 えた。

オバマ大統領は、この目標を達成するにあたり 自らがどのような問題に直面することになるか、 はっきりと理解していた。大統領は、国家の安全 保障戦略における核兵器の役割を縮小すること、 さらに具体的な核軍縮措置を推進すること、核の安全を確保 するためのグローバルな取り組みに着手することが必要であ ることを指摘した。このグローバルな取り組みには、他国に 脅威を与える、あるいは他国を攻撃するために核兵器の使用 を望む可能性のある者の手に、危険な物質や技術が渡ること を阻止するための規制を実際に適用する方策を強化すること、 が含まれている。

このプラハ演説の重要性は、その中心的なテーマである以 下の2 点にある。1)核兵器が、その軍事的、政治的、および安全保障上の価値を失わなければ、(価値を失ったと受け 止められなければ)、核不拡散と核軍縮は持続可能なものに ならないという認識、および、2)市民社会の重要性、である。 「私たちが今日ここにいるのは、世界は変わることができな いという声を意に介さなかった大勢の人々のおかげです」「私 たちが今日ここにいるのは、立ち上がり危険を冒した人々の 勇気のおかげです」とオバマ大統領は述べている。

オバマ大統領がこの先、核兵器が持つと思われている価値、 および核兵器の数を減らすための実際的な政策と手段を打ち出すことができれば、米国は主要国の先 頭に立ち、核問題をめぐる行き詰まりを 打開することができるであろう。

明暗相半ばするNPT 体制の実績

NPT(1968 年合意、1970 年発効)は、 1995 年と2000 年の再検討会議で延長・ 更新されているが、1962 年のキューバ・ ミサイル危機後に誕生した核拡散防止体 制の基盤をなすものである。同条約は、 非核保有国に対して核兵器開発の放棄を 義務付け、核保有国に対しては核軍縮に 向けて進むよう求めている。また、医療、 エネルギーなど軍事以外の目的で原子力 エネルギー計画を進める国に対しては、 原子力技術の移転を認めている。

 

wwwj-ejournals-nuclear6a何の合意文書も採択できなかった2005 年のNPT 再検討会議 (© AP Images/Richard Drew)

189 カ国が加盟しているNPT は、国 際規範として非常に大きな影響力を持っているが、冷戦の産 物であるために弱点もある。そのため、核兵器・核物質の取 得を決意している政府やテロリストへの拡散を防ぐことがで きるように条約の骨組みや実施権限を十分に強化することは 難しい。

再検討会議は5 年ごとに行われるが、これまでの実績が明 暗相半ばしたものであることは明らかである。1990 年の会 議は、NPT が包括的核実験禁止条約(CTBT)締結への支 持を表明していたにもかかわらず、米国がその交渉への参加 を拒否したことから、行き詰まり状態のまま閉幕した。その 後、イラクと北朝鮮における秘密の核開発計画が発覚し、 NPT による保障措置や条約順守義務のメカニズムが不十分 であることが明らかになった。その結果として、国際原子力 機関(IAEA)は、査察権限を強化し、非核兵器国にとって 必須の条件である保障措置を補完するための「追加議定書」 を作成した。

1995 年までに、米国はジュネーブにおけるCTBT 多国間 交渉を主導するようになっていた。NPT は当初の有効期限 を25 年間と設定していた。1995 年の再検討会議では、原条 約の規定により、NPT を延長するかどうか、また延長する 場合は、その期間をどの程度にするかについて決定する必要 があった。

1995 年の再検討会議は、4 週間にわたる厳しい外交交渉の 結果、NPT の無期限延長を決定した。それに先立ち、条約 の再検討プロセスが強化され、条約条項の「完全な実現と有 効な実施に向けて決意を持って進むため」に策定された多く の原則や決議が採択された。これらの原則には、NPT の普 遍的な順守を喫緊の優先事項とすること、「特に中東など緊張の高い地域」において国際的に認められた非核地帯の設置 を求めること、などが含まれていた。

NPT の「原則と目的」についての決定のうち、核軍縮に 関わる部分は、3 つの基本的な要素で構成されていた。すな わち、CTBT の締結、プルトニウムや高濃縮ウランなど核 分裂性物質の軍事用生産に上限を設ける条約、および「核兵 器廃絶を究極的な目標として、世界的に核兵器を削減する体 系的かつ漸進的努力の…断固たる追求」である。CTBT 交 渉は1996 年に条約が採択されたことで成功を収めたが、「兵 器用核分裂性物質生産禁止条約」(FMCT)に関する交渉は 開始されなかった。

2000 年のNPT 再検討会議は、前回よりもさらに激しい議 論を呼ぶ状況の中で開催された。1998 年5 月、まずインドが、 続いてパキスタンがそれぞれ数回の核実験を実施し、1999 年10 月には、米国議会上院がCTBT 批准を否決していたか らである。

こうした障害があったにもかかわらず、非核兵器国7 カ国 は連合を組み、核軍縮に向けた行動計画について、5 核兵器 国と直接交渉を行なった。これが、2000 年の再検討会議に おいて、それまでで最も実質的な内容のある最終文書に関す る合意につながった。参加国は、核軍縮、IAEA による査察、 NPT の普遍的順守、および核の安全と安全保障に関する表 現をより強いものに改めたのである。

NPT 加盟国は2005 年5 月に再検討会議を再び開いたが、 この会議では何の合意文書も採択することができなかった。 米国は自らの核軍縮の約束を守らず、イランや北朝鮮などの 順守義務違反だけを問題にしようとした。非核兵器国は、核兵器国による軍縮が十分に進んでいないことを非難した。ア ラブ諸国は、中東を核兵器と大量破壊兵器のない地帯にする という目標の達成に向けてさらなる進展を望んだが、イラン は自国の核計画に対するいかなる批判も受け入れなかった。 イランが将来この計画を、核兵器の製造に利用するのではな いかと危ぶむ者は多かった。このように考え方は大きく異な り、その差を埋めることはできなかった。

現在、必要なこと

2010 年の再検討会議を成功させようとするならば、参加 各国は過去の会議の教訓に注意を払うだけでなく、核の安全 保障、核不拡散、および核軍縮の実現に向けて現在何が必要 かを再考しなければならない。

2010 年の会議が、前回よりも大きな成功を収める可能性 を示す兆候は数多くある。今回、CTBT が大きな障害にな る可能性は高くない。CTBT 署名国180 カ国のうち150 を 超える国がすでに批准を済ませている。発効にはさらに9 カ 国の批准が必要であるが、米国と中国はともに、批准に向け た努力を自国が行なうだけでなく、他の国にも批准を働きか けると述べている。米国議会上院は1999 年にCTBT 批准を 否決したが、オバマ大統領は上院から批准承認を得るため、 新たに積極的な働きかけを行なうと約束している。

2010 年再検討会議の準備委員会は、以下を含む多くの措 置を支持している。

  • NPT への普遍的な加盟
  • 原子力施設に対する査察の改善など、核拡散防止のための 保障措置の強化
  • 核計画が不拡散要件を順守するものである限り、原子力エ ネルギーを平和的に利用する権利を保証する
  • 各国の核計画の安全と保安措置の向上、および核物質の輸 送手段の改善を約束する
  • 中東地域における核不拡散・核軍縮を特に視野に入れて、 非核兵器地帯を拡大するための交渉を支援する
  • 条約脱退への対処方法(北朝鮮をまねる国が出てくるのを 防ぐ)
  • 核軍縮・核不拡散教育の推進など市民社会による関与の重 要性

さらに根本的なことを言えば、21 世紀の核安全保障およ び核拡散の問題を解決するには、NPT を越えて進むことが 必要である。オバマ大統領のプラハ演説は、真の安全保障に は核兵器の削減・管理だけでなく、その廃絶を図る必要があ るという理解が高まりつつある中で、そうした認識をさらに 高めるものであった。2010 年の核軍縮交渉では、冷戦時代 の核不拡散体制から、21 世紀以降の安全保障に向けた核廃 絶体制への転換を目指すべきである。

NPT の「原則と目的」についての決定のうち、核軍縮に 関わる部分は、3 つの基本的な要素で構成されていた。すな わち、CTBT の締結、プルトニウムや高濃縮ウランなど核 分裂性物質の軍事用生産に上限を設ける条約、および「核兵 器廃絶を究極的な目標として、世界的に核兵器を削減する体 系的かつ漸進的努力の…断固たる追求」である。CTBT 交 渉は1996 年に条約が採択されたことで成功を収めたが、「兵 器用核分裂性物質生産禁止条約」(FMCT)に関する交渉は 開始されなかった。

2000 年のNPT 再検討会議は、前回よりもさらに激しい議 論を呼ぶ状況の中で開催された。1998 年5 月、まずインドが、 続いてパキスタンがそれぞれ数回の核実験を実施し、1999 年10 月には、米国議会上院がCTBT 批准を否決していたか らである。

こうした障害があったにもかかわらず、非核兵器国7 カ国 は連合を組み、核軍縮に向けた行動計画について、5 核兵器 国と直接交渉を行なった。これが、2000 年の再検討会議に おいて、それまでで最も実質的な内容のある最終文書に関す る合意につながった。参加国は、核軍縮、IAEA による査察、 NPT の普遍的順守、および核の安全と安全保障に関する表 現をより強いものに改めたのである。

NPT 加盟国は2005 年5 月に再検討会議を再び開いたが、 この会議では何の合意文書も採択することができなかった。 米国は自らの核軍縮の約束を守らず、イランや北朝鮮などの 順守義務違反だけを問題にしようとした。非核兵器国は、核兵器国による軍縮が十分に進んでいないことを非難した。ア ラブ諸国は、中東を核兵器と大量破壊兵器のない地帯にする という目標の達成に向けてさらなる進展を望んだが、イラン は自国の核計画に対するいかなる批判も受け入れなかった。 イランが将来この計画を、核兵器の製造に利用するのではな いかと危ぶむ者は多かった。このように考え方は大きく異な り、その差を埋めることはできなかった。

現在、必要なこと

2010 年の再検討会議を成功させようとするならば、参加 各国は過去の会議の教訓に注意を払うだけでなく、核の安全 保障、核不拡散、および核軍縮の実現に向けて現在何が必要 かを再考しなければならない。

2010 年の会議が、前回よりも大きな成功を収める可能性 を示す兆候は数多くある。今回、CTBT が大きな障害にな る可能性は高くない。CTBT 署名国180 カ国のうち150 を 超える国がすでに批准を済ませている。発効にはさらに9 カ 国の批准が必要であるが、米国と中国はともに、批准に向け た努力を自国が行なうだけでなく、他の国にも批准を働きか けると述べている。米国議会上院は1999 年にCTBT 批准を 否決したが、オバマ大統領は上院から批准承認を得るため、 新たに積極的な働きかけを行なうと約束している。

2010 年再検討会議の準備委員会は、以下を含む多くの措 置を支持している。

  • NPT への普遍的な加盟
  • 原子力施設に対する査察の改善など、核拡散防止のための 保障措置の強化
  • 核計画が不拡散要件を順守するものである限り、原子力エ ネルギーを平和的に利用する権利を保証する
  • 各国の核計画の安全と保安措置の向上、および核物質の輸 送手段の改善を約束する
  • 中東地域における核不拡散・核軍縮を特に視野に入れて、 非核兵器地帯を拡大するための交渉を支援する
  • 条約脱退への対処方法(北朝鮮をまねる国が出てくるのを 防ぐ)
  • 核軍縮・核不拡散教育の推進など市民社会による関与の重 要性

さらに根本的なことを言えば、21 世紀の核安全保障およ び核拡散の問題を解決するには、NPT を越えて進むことが 必要である。オバマ大統領のプラハ演説は、真の安全保障に は核兵器の削減・管理だけでなく、その廃絶を図る必要があ るという理解が高まりつつある中で、そうした認識をさらに 高めるものであった。2010 年の核軍縮交渉では、冷戦時代 の核不拡散体制から、21 世紀以降の安全保障に向けた核廃 絶体制への転換を目指すべきである。

wwwj-ejournals-nuclear6bニューヨークで開かれた2005 年の会議に参加したNPT 加盟国に、核不拡散支持を表明する広島 と長崎の市民(© AP Images/John Smock)

核兵器のない世界における平和と安全を望む各国指導者は、 そのための基盤を今築く必要がある。法律、技術、安全、検 証に関する要件を厳格に定義して制定することで、核兵器の 価値を低下させなければならない。また、核兵器がなくても 安心できると各国が実感できるように、倫理面での理解、政 治的な決意、国際的な安全保障協力取り決め、実際的な管理 方法、検証機関を生み出さなければならない。

核兵器はだれも使用できない非人道的な兵器であると烙印 を押すことも、ひとつの方法である。生物兵器ならびに化学 兵器の生産・保有を禁止する条約の合意(生物兵器は1972 年、 化学兵器は1993 年)に先立ち、このような非人道的兵器の 使用は人類に対する犯罪と見なされると宣言することによっ て、各国は重要な第一歩を踏み出している。これと同様の一 歩をいま踏み出し、核兵器の使用を禁止すれば、核不拡散と 核軍縮の取り組みは大きく強化されるであろう。

核兵器廃絶については数十年にわたり国連で議論され、多 くの国がこれを推進してきた。潘基文国連事務総長は2008 年10 月、5 項目からなる核軍縮計画を発表し、その中で、 別個の相互に補強しあう複数の条約に基づく枠組み、あるい は「長らく国連が提唱してきたような、強力な検証制度によっ て裏付けられた核兵器条約」について作業を開始することを 提案している。

2010 年は、核をめぐる懸念や勧告について一般論を述べ るだけでは不十分である。NPT 再検討会議がこの程度のこ としかできないようなら、合意文書のインクも乾かないうち に、核不拡散体制には再び亀裂が生じ、拡大してしまうであ ろう。それよりも、各国が大胆に前進を図り、核兵器の威嚇 や使用から解放された未来を確実なものとするほうがはるか に良い。


本稿に示された意見は、必ずしも米国政府の見解あるいは政策を反映するものではない


出典:eJournal “A World Free of Nuclear Weapons”

*上記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

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Beyond Existing Treaties

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Rebecca Johnson, Executive Director, Acronym Institute for Disarmament Diplomacy
The 2010 review conference on nuclear weapons nonproliferation should start laying the groundwork for a treaty abolishing nuclear weapons.

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